第11話 彩加の夢



「ははは。○○○。こっちにおいでよ」

「うふふ。○○○。つ・か・ま・え・た」

 ふたりは高原の花畑が何所までも続く気持ちのよい場所にいる、ふたりはとても楽しそうだった。

 だが、ふたりの顔は朧気でしっかりと見えなかった。

 たぶん彼と彼女は恋人同士なんだろう。

 彼女は活発で元気があって微笑ましい。

 彼の方は物静かで優しそうだ。

 なんとお似合いのカップルだろう。

 私は微笑みながら彼らを見守った。

 それで私は漠然と彼らが結婚するんだと思った。楽しそうなふたりは白然と距離が縮まり肩を寄せ合っていた。

 それはまるで静と動の記号が混濁して螺旋のように絡み合い。そして最期にひとつになった。

 それは美しい輝きを持って私の前に現われたのだ。

 なんという輝かしい運命なんだろう。

 そう私は瞳を閉じようとした。

 だが、私の瞳は炎のように熟い怒りを湛えていた。

 まるで炎が焼き付いたように瞳は閉じることが出来ず。その瞳には熱い涙が止め処なく流れていた。

 なぜだろう。

 こんなに幸せが見えるのに。

 なぜだろう。

 こんなにも暖かいのに。

 なぜだろう。

 なせ、私はこんなに悲しいのだろう。

 気づくと私は泣いていた。

 本当は、あの暖かいモノの正体を知っていたんだ。

 あれは、あのふたりは私の良く知る人なんだ。

 私は忘れていた。

 いや、忘れようとしていた。

 そしてそのまま、その流れを白然に任せようとしてれれば、あとは結果が見えるだけ。

 それが見えたから私は泣いているんだ。

 それは、とてもとても悲しいことだ。

 でもそれは、正しいことには違いない。

 あれは、たぶん白然の摂理なんだ。

 自然としては正しいのだ。

 白然としては……。




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