第6話  彩加の休日

 

 気持ちが良い。

 本日は学校がお休みなのだ。

 お日様の日射しを受けてう~んっと伸びをする。

 今日は星乃宮に行く予定だから一弥の所へでも泊まっていけたら最高なんだけどなあ。

 なぁ~んて、少しばかりハイテンションな私。

 ただ残念なのは泉葉子が昨日から風邪を拗らせて今日の予定が綺麗サッパリ無くなってしまったって事かな。

 ふたりで何処か遊びに行こうと予定をたてていたんだけど……。

 葉子も見たい映画があるって言ってたから今頃はベットの上で悲しんでいない。

 ああ、可哀相な葉子……。

 でも仕方ないさ。

 そんなこともあろうさね。

 葉子には、また今度つき合えばいいさ。

 予定もすっかり無くなくなっちやったけど、葉子の分まで私が楽しんできてあげるからね。 

 そうだ一弥に連絡を取ってデートでも洒落込もうかな♪

 私は晴れやかな秋の日の木漏れ目が降りそそぐ暖かい風の街を進んでいった。

 小鳥が嗚けば声をかけてやり、猫が通れば手を振りかける。

 雲一つ無い見事な秋晴れ!

 総てが快適なこの日和を私は思う存分楽しもうとしていた。

 ――だが、ふと私の足が止まる。

 目の前に気に入らない奴を眼にしてしまたから。


「あら玲奈じやない。こんな所でどうしたの?」

 私は平静を装って言葉を投げかける。

 私の方が大人だからこんな風に冷静なのさ。

「あぁ、なんだ彩加か。お前こそどうした?」

 そうぶっきらぼうに玲奈が聞いてくる。

 あれ、なんか機嫌悪そうだな。

 立ち止まった玲奈は少しばかり拗ねていた。

 足元に落ち込んだ斜めの視線と難しそうな表情。

これは最高に機嫌が悪いときの仕草だ。

私は敏速に反応した。

「なんかあったの?」

 そう気遣うように様子を伺う。

「ふん。なんでもないよ。ああ、それから一つだけ忠告しといてやる。今日、一弥の所に行っても行くだけ無駄だぞ!」

「たしか静柰さんも一弥の仕事があまり捗ってないって言ってたような気がする」

「ああ、彩加わかってるなら話が早いじやないか。真面目も良いけどさ、大概にして欲しいよな。わたしなんて、もう六日もまともに話していないんだぜ。一弥は今、パソコンがとてもお気に入りなんだってさ――馬鹿にした話だよな!」


「なるほどね。でも静柰さんの仕事も本日一杯は掛かるらしいって一弥から聞いてたし、仕事なんだから什方が無いんじやないかな」

 そう冷静に返す私。

 ふふツ。玲奈の奴――いい気味。

 一弥って根が真面目だからね。

 大方、玲奈が――そんなのどうでもいいだろって言って、逆に一弥から

「どうでも良くはないよ。これも大切な仕事なんだからね。玲奈だって白分の仕事は責任を持ってやり遂げるじやないか。それが大人の責任ってものだよ」

 ――って叱られた違いないんだ。

 それで我慢できずに出てきたって寸法だわ。

 そんなの見なくたって手に取るようにわかるんだから。

 まったくもって、いい気味だ。

 一弥は昔から、ああ見えて頑固だから絶対に譲らないから――性格的に。

 そういう時はそっとしておくもんよ。

 最近相手にされてないからって勝手にキレて自爆したたみたいね。

 ああ、所詮は新参者はこれだから。

 まったく情けないったらありやしない。

 いいこと、一弥の事は私が一番わかってるんだから、そんなの当然の結果なのよ。

まだまだ認識レベルが甘いわね――玲奈。

 なんか一ケ月前から玲奈が一弥の前で頬を赤らめたり、妙に女の子ぽく振る舞ったりしてさ、けっこう警戒していたんだけど、完全に私の勘違いだったみたいね。

 そう私は心の中でほくそ笑んだ。

「ふぅん。だが妙だな静柰なんて、どこにも居なかったぞ」

「三日前に連絡をした時には明目まで仕事が片付かないからって言われたんだけどな」

 私は眉をひそめた。

「それはさ。お前――絶対に静柰の奴に担がれているよ。そうじやなかったらあの一弥の忙しさは何だ。まったく調査、調査って。一体何をやらされているんだか知らないけど、どうせ真っ当なもんじやないよ。近頃はあたしにとって面白い仕事なんてないしさ」

 そう玲奈は嫌々をしながら益々拗ねる。

 そうなると何か玲奈が可愛く見えてくるから不思議なもんだ。まあ、それなら私が、可哀相な玲奈のために一肌脱いであげましょうかね――本当は単に私の暇つぶしを玲奈で済まそうって魂胆なんだけどさ。

 あははツ。

 敵を知るのも何とやらってね。

 私は玲奈を伴って、手始めに葉子と行く予定であったパピヨンに向かった。

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