第4話  事務所とランドマーク




気づけば夜も深まり真夜中に差し掛かっていた。

既に藤倉兄妹も帰ってしまった。

 今居るのは雨宮姉妹だけである。

 オフィスから見える街は輝いて見えた。

 遠くに駅のシンボルであるセントラルタワーも一望できた。

「なかなかの眺めだな」

 そう玲奈が黄昏ながら映り込んだ自分の顔を確かめるように大きな窓ガラスに小さな手をかけている。

「そうだろう。この夜景も、此処をわたしが選んだ理由のひとつだ」

 静柰はソファーに深く腰掛けると、遠くに朧気に映るセントラルタワーを目線にいれてミネラルウォーターを口に含んだ。

 セントラルタワーはターミナルビルで百貨店などの店舗、企業オフィス、行政機関などの多くのテナントが入り、星乃宮市の巨大なランドマークだった。

 また駅の東口から出たオープン広場には星乃宮市のシンボルマークである星形をかたどった巨大なモニュメントが床に描かれており、その中央には噴水があった。その中心には高さ7mの時計台があり人々の待ち合わせの場所となっていた。

 最上階がツインタワーと呼ばれ、ふたつのビルで構成されていた。その下は20階までがひとつの建造物となっており繋がっている。

 その中央を南北に新幹線と在来線、2つの私鉄が乗り入れている。

またツインタワーの最上階は東塔と西塔で階数が違っており、東塔が一段高い51階となっていた。


「結構、広いな。ここ何畳あるんだ?」

「ああ、20畳程はあるかな」

「なるほど、応接用のシステムソファーを置いても広々としているわけだ。それに最上階とは思い切ったな。その分、家賃も高いだろう」

「まあな。本当は駅ビルのセントラルタワーの高層階が理想だったが、資金が少しばかり乏しくてな」

「それで、14階建ての最上階か……」

「まあ、この辺は台地になっているからな」

「なるほど、高さだけはセントラルタワーに合わせたのか。相変わらずの見栄っ張りめ」

「まあ、そんな所だ。此処も駅前といえば駅前だしな」

「まあ、地下鉄の入り口から15分も離れているがな」

 玲奈にそう言われて静柰は苦笑する。

「あと奥に4部屋ある。小さい方が私の書斎で、大きな部屋が倉庫にするつもりだ。前の事務所よりも広いだろ。それに仮眠室となんとシャワー室まであるぞ」

「またガラクタばかり集めるなよ。前の事務所は溢れていたからな」

「玲奈――お前。今、ガラクタと言ったか?」

「ああ、ガラクタだろ、そんなの。どれ程の謂われがあるか知らんが、価値なんか今まで無かったじゃないか」

「ふん。一般人にはそう映るだろうな。だが、魔力が宿ったモノは稀少価値が高いんだ。お前も鬼祓いの端くれなら。それくらいわかるだろ?」

「まあな。と、言っても、まあ、わかるのは刀剣の類ぐらいだけどな」

「玲奈。お前も人のことを言えないだろ。人斬り包丁ばかり集めやがって。お前の部屋も一杯なんだろう」

「静柰。人斬り包丁とは失礼だぞ。あれは美術品だ。それに部屋には大小合わせても20本も揃えてない――小規模なモノだ」

「ふん。どれだけ美意識を持って着飾ったとしても、刀剣の類は結果的には人を切る道具には違わんだろうが」

「まあな。それには同感だ。もっとも、あたしは装飾にはそれほど拘りがない。それよりも、なにより斬れるモノの方が良い。そうじゃなければ鬼など斬れない」

「まあ、出物があったら、お前でも価値が分かるモノを揃えておいてやるよ」

「ああ。海外製の古いナイフがあれば、宜しく頼む」

 そう、いつも通りの会話を済ませると、玲奈は革張りソファーに横なって瞳を閉じた。

 



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