『未来少年コナン』

 これで終わり? と思い出すのが『残された人びと/未来少年コナン』著:アレグザンダー・ケイ 翻訳:内田庶である。


 過疎化と高齢化によって限界集落となった地域に住む、村最後の生き残りといえる校長先生、村で唯一人の子供のかおる、肌の色が違う兄の純、兄妹の父トビタカ先生、そしてかおるを教える杏奈先生といった五人と、山向こうの「ガイコツジン」集落からやってきたエトーくんとの奇妙な交流を描きながら、登場人物がそれぞれの役割をきっちりと演じてどうにか幸せであると言い聞かせているファンタジー『残された者たち』について、あーでもないこーでもないと、不便な環境であるはずなのに登場人物がみな善人で幸せそうな物語……ではない。


 未来少年コナンは、一九七八年四月四日から十月三十一日まで放映されたNHK初の長編アニメーション。監督はスタジオ・ジブリで有名な宮崎駿である。

 アメリカの小説家アレグザンダー・ケイのSF小説『残された人びと』を原作としている。

 日本アニメーションがNHKにアニメ企画を提示した中の一本だったが、本命企画ではなかった。

 中島順三プロデューサーによれば、世界名作劇場同様「家族で見られるようなものを」と考え、フランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』をアニメ化しようと思っていた。だが折からのアニメブームを考慮し、「小学校五、六年生に向けた冒険活劇にしよう」と考えを変更。いくつか提示した作品からNHK側が『残された人々』を選んだ。

 宮崎は「こんなものアニメにならないよ」と難色を示したが、設定やストーリーを大きく変更すること、作画監督に大塚を起用することを条件に監督を引き受けたという。

 なので、アニメと原作ではストーリー及び登場人物について、大幅に改変や脚色が加えられている。

 アニメでは、舞台は架空の最終戦争から二十年経過した世界に変更。

 主人公コナンも十七歳のアメリカ的自由主義社会を背負ったハイティーンの少年から、豊かな自然の中で育った十二歳の自然児に。敵役はロシア人を思わせる人名で社会主義国の官僚的な人物像のマンスキーやレプコから、戦災孤児という背景を背負って成長したモンスリーとレプカにそれぞれ変更されている。

 そのため、ハイハーバーをアメリカ、インダストリアをソ連とする原作に立ち戻っての見方には不快感を表明しているという。


 アニメの再放送を見てから、小説を読んでみた。

 アニメと比較してはいけないが、ずいぶんと違う。

 ギガントも三角塔もバラクーダ号さえ登場しない。

 しかも、最後までコナンとラナが会わないし、ダイスが悪役だ。

 ストーリーは、二つの大国が磁力兵器を使って戦争を起こし、世界中のほとんどの人が死んでしまった近未来。戦争を引き起こした帳本人は、生き残った人々を支配しようとするが、主人公のコナンと科学者たちは超能力を使って立ち向かう。

 アニメに出てきた、のこされ島からコナンがインダストリアに連れて行かれ、小舟で脱走してハイハーバーについたところで大津波がきて、唐突に終わる。

 まるで打ち切り漫画か、作者急死につき未完、あるいは出版社が倒産して連載中断したかのような、いきなり終わりなのである。〈下巻に続く〉とあってもおかしくないところで終わるのだ。

 作品全体としては、読みにくいわけではなく、むしろ淡々と話は進む。

 だから余計、唐突に終わった感が否めない。

 原作者に悪いけれども、宮崎さんはよくぞこの原作をあのアニメにまで作り変えられたものだと感服するほどだ。

 原作のタイトルは『The Incredible Tide』信じられないほどの潮、つまり大津波のことだろう。

 これを、『残された人びと』と改めたのは翻訳者だろうか。

 あるいは出版社だっったのか。

 とにもかくにも、大津波よりはマシなタイトルかもしれない。


 いかにタイトルが大事なのかがわかる、そんな作品の一つである。



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