『夏への扉』

 猫でおもいだすのが、『夏への扉』著:ロバート・A・ハインラインである。


 一九八一年四月二十一日にリリース。

 同年六月八日オリコンチャート一位獲得。

 資生堂「エクボ」のCMに使われた後、サントリー飲料「ビタミンウォーター」、伊藤ハム「朝のフレッシュあらびきポークウインナー」にも使用された財津和夫作曲による二枚目のシングルであり、作詞を手掛けた三浦徳子の描く瑞々しい世界観もあって、本人も一回聴いてすぐに好きになったと証言している。

 第三十二回NHK紅白歌合戦で初披露され、「髪を切った私に」というフレーズがあるが、奇しくも歌詞の内容に通じる髪型になっている。タイトルは、ロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』から取ったという松田聖子の五枚目のシングル『夏の扉』について、あーでもないこーでもないと、夏は扉を開けて裸の二人包んでくれる歌謡曲……のことではない。


 本作は、一九五六年に発表された小説。

 舞台は一九七〇年の冬。

 優秀なエンジニアのダニエル・ブーン・デイヴィスは、家事用ロボなど多数の発明品の特許を持っている。

 親友マイルズ・ジェントリイと会社を興して成功し、美人秘書ベリンダ・ダーキンと婚約するなど幸せの絶頂にあったが、商品開発の方針をめぐってマイルズと仲違いをし、彼女にも裏切られて会社を追い出されてしまう。

 そんなダニエルの唯一の理解者は、飼い猫の審判官ペトロニウス、通称ピート。

 失意の底にいた彼は、ピートとともに冷凍睡眠で三十年間の眠りにつく決意をするも、マイルズたちに復讐をしようと思い直す。だが返り討ちにあい、ピートが行方不明となったままで強制的に冷凍睡眠に送られてしまう。

 三十年後、誰も自分のことを知らない二〇〇〇年の世界で目覚め、開発途上のタイムマシンで一九七〇年に帰り、過去の失敗を取り戻す。

 ダニエルを慕う十一歳の少女フレドリカ・ヴァージニア・ハイニック=リッキイに、「二十一歳になったら、冷凍睡眠で二〇〇一年まで眠るように」と告げ、ダニエルは一足先に再びピートと冷凍睡眠の装置に入る。二〇〇一年、三〇歳のダニエルは一足先に目覚め、二十一歳のリッキィを出迎え、結婚する。

 恋も仕事も友情も失ったダンが全てを取り戻していく物語だ。

 

 タイムマシンも冷凍睡眠もまだだけど、作品が書かれた当時は近未来のテクノロジーであった掃除ロボやワープロは、いまではありふれたものに思えてしまう。


 意図的にSFというジャンルを選ぶよりかは、なんとなく読んでいた作品にSFが混じっていたり、そんなアニメや漫画などをみてきた。

 けれども、あえてSF作品をと意識して読んだことがなかったので、改めて古典から読んでみようと思い、なにから読んだらいいのか尋ねて勧められたいくつかの中の一つが、本作だった。


 冒頭「世のすべての猫好きにこの本を捧げる」と書かれている。

 なので「猫が出てくる」話だけれども、ほとんど添え物のような感じにしか出ていなかった。

 それでも、ダンに協力する人は猫好きというところに猫SFといわれるゆえんがあるのかしらん。

 ダンと飼い猫ピートが住むコネチカット州の古い家には、外に通ずる扉が十一もあり、ピートは冬が来るたびにそのドアのすべてを開けろとせがんでくる冒頭から始まる。十一も外に出る扉があるということだろうか。それとも、猫にとっての扉のことで、窓も含まれるのだろうか。そもそもなぜ十一なのだろう。

 リッキィに会ったのは、彼女が十一歳のときだったので、それを暗示させるための扉の数だったのかしらん。


 時間旅行ものジャンルを確立させ、後世の作品に大きく影響を与えた古典的作品の一つである。



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