『風が強く吹いている』

 スポーツものでおもい出すのは、『風が強く吹いている』著:三浦しをんである。


 西暦二〇〇九年、そつなくこなす健太に両親が「何か得られるもの」を期待して広告写真家をしている和希の元でバイトをさせる。 荒れた廃墟で撮影していると、健太は一九八四年にタイムスリップ。そこで高校生のヤンキー和希と出会い、様々な波紋と事件を巻き起こしていくドタバタ青春物語の『風が吹けば』について、あーでもないこーでもないと桶屋が儲かる物語……ではない。


 寛政大学一年生の蔵原走は高校時代、陸上部に所属し、天才ランナーと呼ばれていたが、勝利至上主義の監督とそりが合わず、問題を起こして辞めてしまう。それでも走ることを忘れられないでいた。

 そんな彼は、空腹のためパンを万引き、脚力を活かして逃走。同じ大学四年生の清瀬灰二に捕まり、成りゆきで寛制大学陸上競技部錬成所である青竹荘に行くことになる。住人たちは強制的に部員扱いされるのに加え、密かに灰二によって長距離ランナー向けの身体に改造されていた。

 高校時代に怪我による挫折した灰二が、個性豊かな住人たちと自分の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで仲間と繋がっていく駅伝の最高峰「箱根駅伝」を目指す青春小説である。


 ひとことで言えば、長距離未経験者を集めた無名大学生が、たった一年で箱根駅伝に出場を果たす物語。


 本作を手にしたきっかけは、やはりというかお馴染みの、NHKラジオドラマを聞いたからだった。

 他にも理由があって、ちょうどそのころ陸上部の話を書こうとおもい、いくつか資料を読み漁っていたころ、ラジオドラマが放送していた。

 駅伝も走るのだから同じじゃないかしらん、と興味を持って手にしたのが本作。

 箱根駅伝の話である。

 駅伝選手の動きが目に浮かぶように書かれ、面白く描かれている。

 物語の面白さは、柱である個性豊かなキャラクターにある。また、箱根駅伝に出場するまでの組織や制度、大会中の舞台裏を事細かに描写しているところも作品の魅力だ。


 世にある多くの作品が取材をして書かれている。

 作者は本作を書くにあたって、大東文化大学と法政大学の陸上部に取材を行なったという。関東学生陸上競技連盟に「箱根駅伝には出場するけれども毎回優勝するようなレベルではなく、徹底管理型ではない指導者がいて、若者をどう伸ばしていくかに腐心しているアットホームな小さな陸上部」はどこか、と質問をして返ってきた学校名が、この二校だったそうな。


 それはさておき、スポーツものの小説をこれまでほとんど読んだことはなかった。

 思い出せるのは、村上龍の『悪魔のパス天使のゴール』くらいかもしれない。

 なので、学生時代を駅伝にかける主人公たちの姿は新鮮だった。

 アニメ化する前に読めたのは、僥倖である。

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