『秘密の花園』
女子校でおもいだすのが、『秘密の花園』著:三浦しをんである。
英国領インドに暮らす少女メアリは何不自由ない暮らしを送っていたが、インドでコレラが大流行し、両親が亡くなってしまう。一度も会ったことのない叔父、アーチボルド・クレイヴンに引き取られ、イギリス・ヨークシャーにある、ミッスルスウェイト屋敷で新たな暮らしをスタートさせますが、屋敷には人の気配がなく、開かずの部屋が百近くあり、立ち入り禁止の庭もあるなど不思議なことだらけ。そしてメアリは、閉ざされた秘密の庭を発見。荒れ果てた庭を元気にしようと、動物と話せる地元の少年ディコンや屋敷で孤独に育った病弱な従兄弟コリンとともに、こっそり世話を始める古典児童文学・フランシス・ホジソン・バーネットの書いた『秘密の花園』について、あーでもないこーでもないと、一日一善やってても悪いことだけすぐバレる物語……ではない。
わたしが三浦しをんを知ったのは、小説『秘密の花園』ではなく、Boiled Eggs Onlineのエッセイだった。
Boiled Eggs Onlineとは、日本初の日本人作家・著者のための著作権エージェントだ。欧米の出版界では著作権エージェントが作家・著者の代理人となり、各出版社との橋渡しや、作家・作品の販促を手がけているのが一般的。日本の出版界にはそうしたシステムがなかったのだ。
万城目学の『鴨川ホルモー』もこのボイルドエッグ新人賞作品だ。
それはさておき、『秘密の花園』を手にしたのは、図書館の新刊コーナーに置かれていたのを、たまたま見つけたからだったと記憶している。
どこかで見たような名前だ、と思った次第だ。
本作は、幼稚舎から高校まで揃った、カトリック系女子校に通う三人の十七歳、三編の物語。
【洪水のあとに】
母親を亡くしたばかりの那由多は、幼い頃受けた性的イタズラの記憶にいまも苦しんでいる。
【地下を照らす光】
幼稚舎から学園に通っている、お金持ちの普通の娘、淑子は、国語教師と恋愛関係にある。
女子校という社会の、特殊な人間関係のルールや、那由多や翠の客観的に見た姿が描かれている。
【廃園の花守りは唄う】
中等部から入ってきた翠は何にでも無関心だが、唯一の友達である那由多が悩んでいるのをなんとかしてあげたいと思っている。
淑子によって客観的に見た翠の姿と彼女の内面のギャップが浮き彫りとなっている。
三編のお話は、ハッキリした結末や答えにはたどり着かない。エピローグでは三人仲良く修学旅行に行く姿がある。
作者によれば、吉田秋生の『櫻の園』に触発されたという。
櫻の園とは、「ごきげんよう」という挨拶を交わす、昔から丘の上にあるお嬢様学校・桜華学園で、春の創立祭でチェーホフの『櫻の園』を演じる演劇部員「敦子」「杉山」「由布子」「千世子」の四人をそれぞれ主人公とした四つの短編からなる物語。入れ子のようにつながりながら、べつの物語が展開されていく。また、一章では初体験とキス。二章では、初潮とキス。三章では、初潮と乳房。四章では、乳房と恋。章が進むにつれて、話は彼女たちの内面に向かい、四人の少女は自身が女性であることへの息苦しさを感じていく。
また、四人が心理的肉体的に近くなっていくのに対し、男性は距離を取るように遠ざけられ、漫画の作者は女子校とは「感情だけが支配する場所、夫を持たない王女たちだけの国」と呼び、 「この桜は私たちの頭上を飾る冠です」と讃えて終わる。
小説を読んだとき、たしかに櫻の園をおもい出したけれども、くらべると物足らなさを感じたのをおぼえている。
女子校ではなかったものの、元女子校で、まだ女子校の名残があるころに通っていた経験があるので、女子校の雰囲気は書けているとおもえた。
一冊の物語としては物足りなさはあるけれども、少なくとも一章だけはいい出来だとおもった。だから、このあとも三浦しをんの作品を、なんだかんだいいつつも読み続けていくことになる。
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