『猫のゆりかご』
SF小説でおもいだすのが、『猫のゆりかご』著:カート・ヴォネガットである。
看護学科に通う高校三年生の主人公は、夏休みに産婦人科医院で看護助手のアルバイトを始めた。中絶の現場やその後処置を目の当たりにし、初めは戸惑いながらも、出産に立ち合い、次第に命の重みや輝きを感じ始めるという累計三百二十五万部超、二十~三十代の女性を中心に圧倒的な共感を呼んだ、沖田×華さんの漫画作品をNHKでドラマ化したものを小説化した『透明なゆりかご』について、あーだこーだと命の重さは同じだと伝えたい作品……のことではない。
語り手が「ヒロシマへの原爆投下の日、アメリカの重要人物は何をしていたかの話を書こうとしていた」ところからはじまる、仮想の物質「アイス・ナイン」がばらまかれて世界が滅亡するSFじたての物語だ。
出版は、一九六三年(昭和三十八年)のアメリカ。
ケネディ大統領暗殺が起き、坂本九の上を向いて歩こうが「スキヤキ」というタイトルでアメリカで大ヒット。日本では、伊藤博文の新千円札が登場し、大鵬の史上初六場所連続優勝、初の長編アニメ「鉄腕アトム」が放映開始された年である。
周りの水分すべてを同じ結晶状態にしてしまう「アイス・ナイン」は、人畜無害なハニカー博士の手によって、何ら破滅的意図もなしに(学術的興味のみで)作られたものである。なのに、博士の子孫やその他多くの人達の様々な思惑によって、全世界の海を凍らせて生命を絶滅、世界が滅亡してしまうところに、皮肉とユーモアをまじえて風刺しているところに作家性がでている。
作品を知ったのは、NHKラジオドラマだったと記憶している。
SF小説という認識がなく、タイトルに「猫」がはいっていたから興味をもったのだとおもう。物語の途中から変な宗教とかもでてきたし、世界は滅亡して終わってしまったので、現実でそんなふうになったら嫌だとおもった。
……そうおもいながら、自分の知らないところで、知らないことが起きて、世界が大変になって巻き込まれていくのは世の常だともおもった。
まさに現在、中国から始まったCOVIE19によって、世界はいまだ混乱の中にある。
SFは思考実験だと、誰かが言っていた。
もし起きてしまったらこんな世界になってしまうことを物語として伝えて、常日頃から思考実験して危機を回避するよううながす、その手助けになるのがSF小説だという。
いまも、SF要素が盛り込まれた作品は存在する。
だが、多くが、戦後アメリカで生まれたSF小説からの引用だ。
それでもSF小説を読まなくなっているのが、いまの傾向だとおもう。
とくに企業の経営者などは、さまざまなSF作品を読んで、行き過ぎたその先にどんな暗い未来が待っているのかを想像して、決断をしていってほしい。
ちなみに、タイトルの「猫のゆりかご」とは、あやとりの技の一つである。
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