『夜風魚の夜』
絵本で思い出すのは、『夜風魚の夜』著:朝倉知子である。
八月十五日、「さよなら」だけのLINEでマンションの屋上に駆け付けると、彼女はまさに飛び降りる直前だった。彼女とのなれそめは、飛び降りをはかった彼女を助けたとき可愛い顔立ちと儚い表情に一目惚れしたからに他ならない。いつも僕が来るのを待っている彼女は、中空を見ながら「死神が見える」と言い、それを否定すると
彼女は泣き叫ぶ。「もう死にたいの」と訴える彼女に「僕も死にたい」と言って飛び降りてしまう。死にたがりの彼女は、追い詰められた僕が生み出した幻想の「死神」だった。来世に思いを馳せながら、世界の焦燥から解放された二人はどこまでも続く夜に溶け込んでいくという「タナトスの誘惑/夜に溶ける」他作品も収められた星野舞夜の短編集『夜に駆ける』について、あーでもないこーでもないとメリーバッドエンドか否かを語り合う物語……ではもちろんない。
風が
さかなに
すがたをかえて
ゆれるように
およぐころ
しずかに
ヨルが
あらわれた
という詩的な文章ではじまる本作品は、夜の訪れとともに風が魚となって夢に遊ぶ詩的世界が現れる。武蔵野美術大学短期大学部卒業後、劇団四季にて装置・衣裳・グラフィックデザイナーを経て、絵本を中心に創作活動中。二〇〇〇年第十六回ニッサン童話と絵本のグランプリ絵本大賞受賞作。
やみがあたりをつつむ
風が魚にすがたをかえて
およぐ
夢の時間が流れる
琥珀の中のムカシトンボの夢
りりしい旅人の夢
チェロを弾く音楽の夢
無破棄にいのる子どもたちの夢
夜が明け
夜風魚はほどけて風になる
幻想的な作品を書こうとしていたときだった。
図書館で偶然見つけたのが、この絵本。
お話を作るときはキャラデザインや絵コンテを描いてイメージを膨らましていく。
イメージのために美術館へ足を運んだり画集を読んだり映画を見たり、多くの作品に触れるようにしている。だけど、そういうときは自分の好みで選んでしまうため、結果として自分の内側にある世界の具現化になってしまう。読者は気づかないからいいかもしれないけれど、作者としては同じことの焼き回しになってしまい、鈍化し、意外性が生まれなくなる。
なので、好き嫌い関係なく、偶然手にしたものをあえて作品作りに取り入れようと考えていた時期に本作品とめぐり逢ったのである。
こののち絵本をよく読むようになっていく、そのきっかけとなった作品である。
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