『空飛び猫シリーズ』

 猫といえば、『空飛び猫シリーズ』著:アーシュラ・K. ル・グウィン、訳:村上春樹である。


 転校生の猿飛エツコは小柄で丸顔、目と口は大きく、鼻は小さいショートカットな女の子。赤ん坊からのアドバイスでリボンをするようになり、人並みはずれた怪力と俊足、超能力まで使い、動物と話せる不思議な子だ。彼女の愛犬プクも人の言葉がしゃべれるという。勝手に広岡三枝子の部屋で一夜を明かし、一度は追い出されるが、彼女の家の火事を消した縁で居候することになる。小学校を舞台に爽快な大活躍をする石ノ森章太郎原作「おかしなおかしなおかしなあの子 さるとびエッちゃん」について、あーでもないこーでもないとその先にある世界を想像していく物語……ではない。


 ファンタジーとは、見えないものを見えるようにするもの。ゆえに、物語の形を取りながら善悪と真偽の見え方、美醜の基準や公平とはなにかを教えてくれる。


 アーシュラ・K・ル・グウィンといえばご存知、「SF界の女王」と呼ばれ、またファンタジー小説のゲド戦記シリーズを書いたことより「西の善き魔女」ともあだ名されるアメリカの作家だ。

 彼女に影響を得た人は多く、『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』などを執筆した萩尾望都や『勾玉シリーズ』『西の善き魔女』『RDGレッドデータガール』などを執筆した荻原規子、『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』などを手掛けた宮崎駿は『風の谷のナウシカ』以前に自ら映画化しようとしていたほどで、バイブルとして枕元にゲド戦記を置き、自らが手掛けたすべての作品に影響を受けているという。

 そんな彼女が書いた『空飛び猫シリーズ』を訳したのが、村上春樹である。

 翻訳家の一面をもつ村上春樹を、好きか嫌いかはこの際、脇へ置いておく。


 作者や翻訳者の名前で、薄くて絵本のような本を手にしたわけではない。

 あれは、なにかファンタジー小説を書こうと思って本棚を探していたときだ。

 偶然見つけた、『空飛び猫』という薄い本。

「猫」というだけで興味がそそられるのに、「空飛び猫」というタイトルに目を引いた。なんだろうと思い表紙を見れば、書かれている絵の猫たちの背中には、なんと羽根が生えているではないか。

 錦上添花。

 かわいいは、正義!

 ず、ずるい。

 読むしかないじゃないかーっ。


【空飛び猫】

 翼の生えた四匹の兄弟猫は、母猫と生活環境の悪いところで暮らしていた。やがて一人立ちすることとなる。子猫たちが巣だった後、母猫は新しい雄猫と再婚。飛び立つ子猫たちを見て「素晴らしい子供たちじゃないか」と誉める雄猫。

「私たちの間に生まれる子猫だってきっと素晴らしいわよ」と答える母猫。

 四匹の空飛び猫は、やさしい人間の子どもに飼われることになる。


【帰ってきた空飛び猫】

 平和な森でのびのびと暮らすセルマ、ロジャー、ジェームス、そしてハリエットの仲良し四兄弟。喧噪の街に残るお母さんが気になり、ハリエットとジェームスの二匹が飛んでいってみると、街は再開発が進み、昔住んでいたゴミ箱が見当たらない。

 壊される直前のビルのかげに小さな翼をはやした黒猫をみつけた。それがジェーン、彼らの小さな妹だった。妹を連れて母親を探しに出かける。


【素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち】

 前作で空飛び猫の兄妹の仲間に加わった黒猫ジェーンと、翼のないアレキサンダーの物語。樹から下りるのが苦手なファービー家のアレキサンダーは、犬に追われて登ったが、怖くて降りられなくなる。そんなとき助けたのがジェーン。彼女はアレキサンダーを仲間たちのところへ連れて行き、結果として優しい飼い主に紹介する事となる。お礼に街での恐ろしい体験から口がきけなくなっていたジェーンの話を聞いてあげ、ジェーンが喋れるようになる。


【空を駆けるジェーン】

 六匹の猫たちは、農場の納屋前の庭でのんびり平和に暮らしていた。

 ところが、ジェーンは同じことのくり返しでしかない毎日に物足りなさを感じ、刺激を求めて冒険に出かける。いくつもの農場の上を飛び、たどり着いた都会で飛び込んだ部屋の主人は、親切そう。実際、餌をくれて優しく撫でてくれたが、彼はマスコミに彼女を売り込もうとする。ジェーンは何とか逃げ出し、お母さんの元へ行き、優しいおばあさんの元で都会暮らしを楽しむ。


 はっきりいえば、絵本みたいな本である。

 文量は少なく、村上春樹の翻訳のせいもあってか、あっという間に読めてしまう。

 これは寓話だ。

 

 寓話から創作を考えてみようと思った、きっかけの作品である。

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