『ジゴロ』

 同性の恋愛小説といえば、『ジゴロ』著:中山可穂である。

 

 十七年前、渋谷にあるUS劇場の看板踊り子のラビアン・ローズは、聖夜に男児、吾郎を出産。ローズを愛するさまざまな職の男たちが父親になろうと勇んだ。そして現在、吾郎は様変わりした渋谷の喧騒の中にひとり佇んでいる。人生のわけを知った幾人かの父親たちに見守られながら、世が流転しても変わらぬ人と人との濃密な時間の中で成長していくさまを描いた伊集院静の青春巨編『ジゴロ』について、あーでもないこーでもないとなぜ人は早く死んでしまうのかを語り尽くす物語、ではもちろんない。


 中山可穂作品の初読である。

 わたしは、彼女をご存知ではなかった。

 文壇づきあいとは無縁で、マイペースな執筆活動を行っているため「孤高の全身恋愛小説家」と呼ばれるらしい。

 女性同士の恋愛をテーマにした、切なくて純度の高い作品が多く、初期は過激な性描写で女性同士の恋愛を追求していたが、後に世界観を広げ、男女の恋愛や男性同士の恋愛、親子愛や広く人間愛をテーマとした作品も多く書いている。だからだろう、ビアン作家と呼ばれることを嫌っている。華麗だけでなく、硬質で繊細な文章を書くのが特徴だ。


 恋愛小説を書こうと思い、あれやこれやと恋愛小説を物色していたときのこと。

 男女の恋愛ものは世に溢れているので、なにか奇抜な、他とは別の新機軸な作品はないかしらんと探していた折、見つけたのが中山可穂「ジゴロ」である。

 手にした理由は、タイトルと黒い表紙と猫に惹かれたから。

 

「たったひとりの女を愛し続けるために、百人の女と寝ることもある」新宿二丁目でギターを弾くジゴロの女性カイをめぐる女性同士の恋愛連作五編集。

 カイに出逢った女性たちは、かならず恋をする。ただ恋をするだけでなく、恋初め、恋乱れ、恋慕い、恋忍び、恋焦がれてしまう。そんな彼女たちを通り過ぎるように抱くのではなく、いつでも優しく想っている。

 飄々とした余裕のある魅力的なストリートミュージシャンであるカイ自身にも大切なメグがおり、カイを愛する相手の女性たちも、結婚していたり気になる男の子がいる女子高生だったりする。なので、相手の女性たちの家庭などの問題も絡んできて、ときに切ない。

 あっさりしていて、文体はきれい。

 ワーカホリック気味のメグとは話をする時間すらまともに作れず、放っておかれる寂しさから彼女を恨みそうになる。そうならないためにカイは、いろんな女と恋をする。一番大切な女を、常にベストな状態で愛せるよう他の女と会って遊ぶのだ。

 女との恋の海を飄々と泳ぐ様はまさにジゴロ。

 この本で、ラタトゥイユを知った。

 桃が印象に残り、冷蔵庫にたまたまあった桃をスリスリと触ったおぼえがある。

 他の中山可穂の作品よりも、読みやすい。

 なので、本作が初読だったことで他の本に手が伸ばせたのかもしれない。


 できるなら、大人になってから読むといいかもしれない。

 

 

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