『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』

 猫とマドレーヌで思い出すのが、『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』著:万城目学である。


 時は西暦一七七五年――、フランス東部にあるロレーヌ地方を収めていたルイ15世の妃マリー・レクザンスカの父親である元ポーランド王スタニスラス・レクチンスキー公は、美食家で大食漢として有名だった。コメルシーという町で野外パーティーを催した際、事もあろうに菓子担当の職人が料理長と喧嘩をして帰ってしまう。料理長が困り果てていると、召使いマドレーヌ・ポルミエが祖母から教わった菓子生地をホタテの貝殻の型にいれて焼き上げ、デザートとして供したところ、レクチンスキー公は大変気に入り、召使いの名前をとって名付けられた『マドレーヌ』について、あーでもないこーでもないとふっくらしっとりな味わいと肉球の柔らかを語り尽くした物語……ではもちろんない。


 軽い気持ちで読める。

 優しくて心温まる。

 はっきりいうと、万城目学の中で一番いい作品である。なにせ、二百ページくらいの薄さなのであっという間に読めてしまうのだ。他の作品はだいたい五百ページくらいはあるから……。

 万城目学といえば、「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」「偉大なる、しゅららぼん」などの作品があり、奇抜で神とか鬼とか、歴史を巻き込んだ奇天烈なファンタジーものを書く作家だと思われているかもしれない。

 そんな考えを一蹴するのが、本作品「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」である。

 万城目学作品を読み続けてきたけれど、どういうわけか本作品はいつもと違う本棚に置かれていたため、驚いたのを覚えている。

 そもそも、児童向けの話を考えてあれこれ児童書籍を読み漁っていたときに、本作と巡り合ったのだ。


 ゲリラ豪雨が降った日、小学校入学前のかのこちゃんが飼っている年老いた柴犬玄三郎の犬小屋にアカトラの猫が逃げ込んできたことからすべてがはじまった。

 知恵が啓かれた小学一年生のかのこちゃん。年老いた柴犬の玄三郎。そして、なぜか外国語がはなせる猫のマドレーヌ夫人。猫にとって犬語は外国語。犬と言葉が通じるマドレーヌ夫人は最愛の夫である玄三郎を、小学一年のかのこちゃんには良き友人であるすずちゃんが大切である。

 相手のことを想いながら過ごしていくも、突然訪れる友人と最愛との別れ。切ないながら、お互いにとって必要な別れでもあった。

 実際にありそうに思える世界観も、作品の良さである。

 また、猫であるマドレーヌ夫人を中心に、猫の生態や猫の感覚描写が具体的に書かれているので、猫好きならば是非一読をおすすめしたい。


 奇抜な設定より、普遍的かつ興味あるものの方が楽しめるのではないかしらんと思えた作品の一つである。


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