『武士道シリーズ』

 剣道に青春をかける女子といえば、「武士道シリーズ」著:誉田哲也である。


 神奈川県私立室江高校、非常勤講師の石田虎侍が顧問を務める剣道部は廃部同然だった。ある日、高校時代の先輩に飲みに誘われ「自分の指導する女子剣道部と勝負して勝ったら一年間、父親の経営する寿司屋で寿司食い放題にしてやる」と持ちかけられてその気になり、天才少女・川添珠姫を皮切りに部員は集まり、女子剣道部員が目標へ向かって緩やかにまったり部活動をしていく「バンブーブレード」について、あーでもないこーでもないとコミカルに描いた青春系学園剣道ストーリー……のことではない。


 日本舞踊をやめて中学から剣道をはじめた西荻早苗は、重心を下にしたやわらかい動きでみるみる成長するも、勝敗に固執しない性格。一方、三歳から剣道を始め、パワー、スピード、勝負勘のすべてに秀でる勝負に貪欲で無骨な磯山香織。中学最後の区民大会個人戦で二人は対戦し、香織はなぜか早苗に負けてしまう。

 全く価値観の違う二人が同じ高校に入り、剣道を通し深く繋がっていく「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」「武士道エイティーン」そして、武士道ナインティーンではなく「武士道ジェネレーション」である。

 早苗は怪我のために剣道をあきらめるが、悲観した様子はない。充実した学校生活を送るも外国人に対する苦手意識を感じはじめてもいた。卒業後、香織の兄弟子・充也と結婚して桐谷道場を手伝うも、アメリカ人のジェフが入門してくることで早苗は葛藤していく。

 香織は剣道推薦で大学に入学し、数々のタイトルを獲得するも将来を思い悩んでいた。そんなとき、桐谷道場で師範の桐谷玄明が倒れ、にわかに後継者問題が巻き起こる。迷ったすえに彼女は後継者を目指すための特訓をはじめる。香織は桐谷道場の師範代となり、アメリカ人剣士ジョフにプロポーズされるなど、大人になった二人はそれぞれの道を歩んでいく。

 自虐史観云々のエピソードは違和感をおぼえた。


 高校を舞台にした青春小説ものを検討して、あれやこれやと作品を読み漁っていたときに新聞広告で目に止まったのが「武士道シックスティーン」だった。目に止まっただけで、すぐに読んでみようとまでは思わなかった。

 理由は、運動部に所属した経験がないので、剣道作品を我先にと率先して読もうとは思えなかったのである。

 そんな事をいっていたら、ファンタジーも時代小説も読めないじゃないか……。

 そもそも小説なんてものは、自分が知らない世界だからこそ、読んでみたいと思うものではないだろうか。だから読むべきではないのかと自身に言い聞かせると「さもありなん」と納得してようやく、本作品に手を伸ばすことができたのである。

 勿体つけたように書いてはいるが、実際のところは図書館の新刊コーナーに置かれていたのをたまたま・・・・みつけて、借りて読んだら「面白かった」というだけの話だ。

 二人の目線で語られているところは、文体を使い分けて書かれてある。

「シックスティーン」「セブンティーン」「エイティーン」と読み続けて、これで完結だと思った。

 しばらくした後、「ジェネレーション」が発売。

 そのころには、すっかり「武士道シリーズ」の熱は冷め、青春小説ものを書き終えていたため、長らく読もうとは思えず手が伸びなかったのである。

 高校生だった二人が、大人になったところに歳月を感じた。

 前作の発売から間が空いているのと、私が三作を読んでから時間が経過しているのと、作品内容もあれから六年の月日が過ぎていることが重なり、読んでみたらン十年ぶりに親戚の結婚式に呼ばれたみたいな奇妙な感覚に襲われた。

「君たち大きくなったんだ、よかったね、頑張って」と思うほどに作品との距離ができてしまっていたのだ。

 とりあえず四冊で完結みたいだから、これから読む人がいたなら四冊そろえて一気読みするといいかもしれない。


 青春小説は二度とは戻れない青春の期間だけを書いて、以降続編はスパッと書かないほうがいいのではないか、と考えさせてくれる作品の一つである。

 


 


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