『リテイク・シックスティーン』

 タイムリープもので思い出したのが、筒井康隆の時をかける少女ではなく、「リテイク・シックスティーン」著:豊島ミホである。


 日本舞踊をやめて中学から剣道をはじめた西荻早苗は、重心を下にしたやわらかい動きでみるみる成長するも、勝敗に固執しない性格だった。一方、三歳から剣道を始め、パワー、スピード、勝負勘のすべてに秀でる勝負に貪欲で無骨な磯山香織。中学最後の区民大会個人戦で、香織はなぜか早苗に負けてしまう。全く価値観の違う二人が同じ高校に入り、剣道を通し深く繋がっていく「武士道シックスティーン」について、あーでもないこーでもないとンメアァァーッと打ち込んでいく青春エンターテイメント正面一本打ちの物語……ではない。


 豊島ミホといったら、早稲田大学在学中に「青空チェリー」で作家デビューし、以後「日傘のお兄さん」「ブルースノウ・ワルツ」「檸檬のころ」「陽の子雨の子」「夜の朝顔」「エバーグリーン」「ぽろぽろドール」「東京・地震・たんぽぽ」「リリイの籠」「花が咲く頃いた君と」「カウントダウンノベルズ」「初恋素描帖」「純情エレジー」「夏が僕を抱く」などの作品もあるのになぜこれなのか、というかもしれない。

 もちろん、これらの作品も読んだ。

 読んだけれども本作品をあげたのは、やはり、NHKラジオドラマの影響である。

 ラジオドラマばっかり、とツッコミが飛んできそう。

 とはいえ、ただでさえ作品が世にあふれている中、これぞという一冊に出会うためには、書店や図書館、新聞の三段八割広告やネットだけでは不十分。より広く捉えるためにもアンテナを伸ばすことをおろそかにしてはいけないのだ。


 高校に入学したばかりの主人公沙織は、クラスメイトの孝子に「未来から来た」と告白される。未来の世界では、孝子は二十七歳の無職。イケてなかった高校生活をやり直せば未来も変えられるはずだ、というのだ。

 学祭、球技大会、海でのダブルデート……。かけがえのない一度きりの青春時代の渦中にいる若者たちは、日々の問題に追われて、その大切さや愛おしさに気付けない。両親の離婚や自由奔放な母親のせいで、夢もなく、昨日のくり返しの今日を淡々と過ごしていた主人公が、青春を「やり直す」友人の積極的な姿に引きずられ、地味で堅実な沙織も、今この瞬間、この時を大切に生きることに目覚めていく。

 

 タイムリープものを書こうと考えていたとき、いくつか作品に触れている中で本作品に出会った。だからなのか、どうやって孝子はタイムリープをして過去に来れたのだろうかが気になって仕方なかった。

 二〇〇九年刊行されたのだから、物語世界は二〇〇九年だと仮定し、その一一年後といえば二〇二〇年。

 私たちは知らないうちに、タイムリープが実現する世界後を生きているのだ。

 な、なんだって~。

 それはさておき、無職の孝子がどのようにして、タイムリープの手段を手に入れたのだろう。

 読者があれやこれやと自由に考えるのはいいのだけれど、いざ作る側となったときに「タイムリープものを書きたいから、政宗一成のナレーションとともに御都合主義が起きてタイムリープが起きたことにしよう」と書き進められるか否かは、作品のテイストよりも作者の性格によるのかもしれない。

 少なくともわたしは、自分が納得いく説明ができないと無理、と本作品を読んで思った。

 主題はタイムリープではなく、一度きりしかない青春時代のいまを大切に生きることなので、そちらに重きをおくのが当然だ。

 わたしが思ったのは、あくまで作り手側となったときのこと。

 作品内に名言されていなくとも、作者だけが納得できていればいい説明(科学的根拠ではなく「神様が過去に送ってくれた」、あるいは「雷の衝撃で」でもなんでもいい)は考える必要があると思った。


 もしもあのとき……といった、人生に「タラレバ」はなく、すべてが自分自身の選択の結果。後悔のないよう選んで今を満足に生きていたとしても、「もしもあのとき、別の道を歩んでいたら?」と、過去の亡霊に捉われることはある。

 そういう読者の願いを祓うためにも、タイムリープものは必要かもしれないと思える作品の一つだ。

 



 

 

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