『カラフル』

 後回しにしてきた作品といえば、「カラフル」著:森絵都である。


 かつて、幸せな日々をおくっていた平凡な一人の少女が、その身を賭してすべての魔法少女たちを残酷な運命の連鎖から解き放った。だが彼女への想いを果たせぬまま取り残された魔法少女暁美ほむらは、彼女の残した世界でひとり戦い続けてきた。だが、そういえばあの子も嫌だと言ってたし傍にいて欲しいから、と、悪魔になって神様を無理やり辞めさせてあげたアニメ『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』の主題歌である「カラフル」について、あーでもないこーでもないと円環の理に導かれるまま語り尽くす物語……ではもちろんない。


 本作品は一九九八年七月に出版され、一年後に一九九九年にラジオドラマ化、二〇〇〇年に実写映画化、二〇一〇年に映画アニメ化、二〇一一年演劇化、二〇一八年朗読ミュージカル舞台化、同年タイで実写映画化、二〇二〇年再び演劇化されている。 

 ざっくり言えば、本作の主人公「ぼく」は生前、服薬自殺を図って死に、輪廻の理から外されたはずだった。だが、天使業界の抽選に当たり「修行を通じて自分の罪を自覚すれば生まれ変わることもできるが、生前に犯した罪が重ければ重いほど修行は過酷なものになる」と聞き、拒否するも逆らえず嫌々人間界へ戻って自殺を図った小林真の体にホームステイし、修行しながら期間内に自分は生前どんな罪を犯したのかを思い出さなければならなかった。タイムリミットぎりぎりで、「ぼく」は「小林真の魂」だったと悟る、という物語である。


 作品を知ったのは、小説ではなくNHKラジオドラマ。

 二〇〇六年 『風に舞いあがるビニールシート』で第一三五回直木賞を受賞するよりも前である。

 森絵都氏の名前は以前から知っていて、アニメ「白鯨伝説」とブラック・ジャックOVA版のクレジットの中に見たことがあった。

 ただ、それを思い出すのに少々時間がかかり、「名前は知ってるんだけどいつ知ったのかしらん」と頭を抱えたことを憶えている。

 主人公が「抽選にあたり、自殺を図ったという他人の体にホームステイする」発想はおもしろかったが、すぐ「他人の体といいつつ、自分自身に戻ったのだろう」と思い、その後の展開が読めてしまった。

 琴線に触れ、自分と作品に類似性を見出したから、先が読めたのだろう。そういう作品に出会うことは稀にあるし、出会えたときは感謝することにしている。


 主人公は自殺を図ってるし、後輩は売春、母親は不倫と、重いテーマ内容を扱うため、テンポよく読みやすい軽い文体を選んでいる。

 主人公は「この世があまりにもカラフルだから、僕らはいつも迷ってる。どれがほんとの色だかわからなくて。どれが自分の色だかわからなくて」といっている。

 本作のタイトルでもある「カラフル」は、人の感情も世界も様々な色に満ちていて、自分の色を探しているところから来ているのだろう。

 自分の色を決めようとするから、誰もが迷うし、惑うし、見誤ってしまうのだ。

 そうではなくて、その時の気分で「色」を自分で選んで変えていけばいい。

 今日は「青」、明日は「赤」といった具合に。

 自分で、自由に、変えていいのだ。

 何者にもなれる、どんな考え方もできる。

 固定観念にとらわれているのは自分自身。

 自分を客観視することで、誰にでも「いままでとは違う自分」になれる可能性があることを、この作品は見せている。

 一度は死んで他人の体といいながら自分の体に戻り、受動的から能動的へ変わることで、世界も変えていける。

 ゆえに「カラフル」なのだ。


 重い内容には軽い文体を選んでバランスをとることも教えてくれた、そんな作品である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る