『わたしは女 わたしは船長』
ノンフィクションで思い入れがあるのは、「わたしは女 わたしは船長」著:リンダ・グリーンロウである。
漁場は国家間の取り決めで線引きされているため個々の漁師はまったく口出しできず、現代の延縄漁はGPSや魚群探知機を駆使するハイテク産業。映画「パーフェクト・ストーム」のモデルであり、世界でただ一人、東海岸漁獲ナンバーワンのマグロはえ縄漁船を操る女船長リンダの、水揚げを求めるオーナーとさぼりたがる乗組員との板挟みで苦しみながら、潮の流れや気圧、風向きや水温など、あーでもないこーでもないと全船一丸となって漁をする三十日間の
ゆえに、映画「パーフェクト・ストーム」について言及されているわけでもなければ、広大な海へ冒険にでかけもしない。宇宙船サジタリウスのオープニングの、「子供の夢にもでてこない、大人が懐かしがることもない~、だからといって駄目じゃ~ない」が聞こえてきそう。
映画「パーフェクト・ストーム」を見ていないので、映画による影響で本を手にしたわけではない。
手にした理由は別にあった。
当時、遠縁のおじさんが「作り話の小説は面白くない。ドキュメンタリーやその道に秀でた人の自伝のほうが面白い」といって、芸能人やスポーツ選手の自伝を読んだ影響からバレーボールを見るようになり、「ルールもやり方も知らなかったのだがすっかりおぼえてしまった」と豪語していた。
というわけで、そのおじさんから「自伝を書いてくれ」と頼まれたことがある。
対談を書籍にする際、聞き取ってテープ起こしをする手法を採用。同時に、ふさわしい文体や構成など参考にするために、いくつか自伝やノンフィウション、エッセイを読み漁っていったなかで手にしたのが本書だった。
タイトルは直接的でわかりやすい反面、「わたしは女」とことさら主張しなくてもよかったのではないか、といえるのは現在の考え方だ。
出版当時の時代は、男女雇用機会均等法(正式名称「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」)が一九九九年に改正、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」となってまだ久しく、「女〇〇」「〇〇女子」という言葉をつけたがる風潮(今もある)だったためではないかしらん。
原題は「The Hungry Ocean」(飢えた海洋)
もはや日本のお家芸なのか。洋画を国内で上映するとき、内容をわかりやすくするために、シックでカッコいいポスターをガラリと変え、タイトルにも手を加えるのをよく見かける。
題名変更をした出版社は、それと同じような手法をとったのかもしれない。
それはさておき、本書に劇的な事件は起きないし、漁船の通常勤務が描写されている。だが、面白い。彼女たちには日常でも、陸にしか暮らしていないわたしたちには十分に非日常なのだ。とはいえ、引き込まれるほどの描写や文章ではない。けれど、北米のニューファンドランド島の暮らしも描かれているところもまた、魅力だ。
余談だが、おじさんの自伝制作は中断となってしまった。そんな事も踏まえて思い出す作品である。
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