『けさのことば/新輯けさのことば』
新聞で読んでいて思い入れがあるのは、連載小説ではなく掲載されていたコラムであり、それをまとめた「けさのことば」「新輯けさのことば」著:岡井隆である。
江戸時代、徳川幕府は宗教統制の一環として、すべての人に寺院の檀家になる「寺請制度」を強要し、僧侶を通じた民衆管理が法制化されたため、寺院は幕府の出先機関の役所となった。家族全員の出生地や生年月日を届けさせ、「婚姻」「旅行」「就職」「移住」などの際にはキリシタン信徒ではなく寺の檀家であるという寺請証文を出させた。
結果、本来の宗教活動がおろそかとなり、汚職の温床にもなったことから、僧侶を憎む人々も多かったため生まれた【袈裟のことわざ】、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」について、あーでもないこーでもないと毎朝激しい投稿バトルをおこなったコラム……ではない。
日本の歌人・詩人・文芸評論家。
未来短歌会発行人。
日本藝術院会員。
塚本邦雄、寺山修司とともに前衛短歌の三雄の一人である岡本隆は、慶應義塾大学医学部卒。内科医師として、国立豊橋病院内科医長などを歴任した歌人であり詩人であり評論家でもある。
某朝刊の「けさのことば」は、一九八四年六月から二〇一四年二月までの二十五年間、彼が執筆した。
中立な新聞などありはしない。
菅直人前首相を中心とする民主党議員たちの北朝鮮拉致関連団体への巨額献金問題に対して、朝日、毎日、赤旗、東京などは上層部が集まり、極力この件には触れないと談合したらしい。
重大な疑惑で国会でも取り上げられた問題なのにもかかわらず、ほとんど報道されなかった。それを一番報道したのが産経、次に読売だったという。(震災が起きた二〇一一年三月一一日、国会では菅直人前首相の北朝鮮とつながりのある団体からの巨額の献金問題を厳しく追及していた)
偏りのある新聞紙面の中で唯一の良心として、テレビ欄と四コマ漫画の次に読んでいたのが「けさのことば」だった。
大岡信の「折々のうた」や坪内稔典の「季節のたより」などと同じように新聞の片隅に掲載された短いコラムには、短歌、俳句、詩、古今東西の人生訓、箴言などの書籍から言葉を選び、岡井隆の解説感想が添えられたものだ。
まとめられた「新輯けさのことば」のあとがきには、朝のコラムだから明るく前向きな内容を心がけた、と書かれてある。どの言葉も感嘆を禁じえない。
朝、かならず「けさのことば」を読み、ハサミで切り取ってスクラップしたものである。
そんなコラムがその後まとめ上げられ、「けさのことば」全三巻、「新輯けさのことば」全七巻が刊行された。
無作為に選んでみる。
想像力が、すべてを思いのままに動かす。想像力が美を作り、正義を作り、幸福を作り出す。 「パンセ」パスカル(田辺保訳)
パスカルは想像力の作り出す過ちを指摘したのだ。実物を見ないで、誤った想像をめぐらしてしまう。妄想といってもよく幻想といってもよい。この想像力のおかげで、あらぬものを思い描き恐怖したり喜悦したりする。人間はそのように作られた存在だということである。
成功への第一の秘訣は、小さな嫉妬心になるべく触れないことだ。団結だけが力だ。 「ゴッホの手紙」(E・ベルナール編、硲伊之助訳)
親友の画家ベルナール宛ての手紙の一節。「小さな嫉妬心」が仲間との結束を破ることをゴッホは知っていた。だがことはそう順調にはいかない。この時開いた展覧会でも、会場のレストランの主人と口論して、自分の作品を皆持ち帰ることになってしまった。
重要な書物はいかなるものでも、続けて二度読むべきである。「読書について」ショペンハウアー
掲出句では「続けて」というところに力点がある。二度目となると「事柄のつながり」が見えており、「結論」を知っているので「重要な発端の部分」もようわかる。二度目には違った気分で読み違った印象をうける。この哲学者の忠告が守られにくいのは、われわれが単にいそがしいからだけだろうか。
選ばれた言葉に添えられた解説感想は、真理に近づこうとしているようにも見て取れる。
多くの作品に触れる機会を得たおかげで、物事の見方や考え方をするきっかけとなり創作にも役立つ、そんな作品である。
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