『マリア様がみてる・お釈迦様もみてるシリーズ』

 コバルト文庫で思い出すのは、「マリア様がみてる」著:今野緒雪である。


 結婚経験はあるが、亭主の浮気が原因で離婚してからはネコを唯一の肉親として暮らす身寄りのない中年女性・石崎秋子は、大沢家政婦紹介所に所属している。上流階級の家庭に派遣されては、家政婦として働くことに生きがいを持ちながら同時に仕事先の家庭の欺瞞ぶりをこっそり盗み見み、秘密を探り出すことに無上の喜びを感じている。故に、自ら家族全員が集まる席で知り得た秘密を洗いざらいぶちまけては去っていく『家政婦が見た!』について、あーでもないこーでもないと愉快に語った作品……ではもちろんない。


 東京都、武蔵野にある緑豊かな丘の上にある女子校、私立リリアン女学園。明治三十四年、華族のお嬢様教育の為に建てられたカトリック系の学園は、平成を迎えても幼稚舎から大学まで一貫教育で温室育ちのお嬢様が箱入りで出荷されている。

 純粋培養の乙女たちが清く正しい学園生活を受け継いでいくため、高等部に「山百合会」という特殊な生徒会や姉妹スールなど独自の制度が存在している。姉妹制度とは、ロザリオを授受する儀式を行って姉妹となることを誓うと、姉である先輩が後輩の妹を指導するというものだ。

 そんな貴重な仕組みが残る学園を舞台に少女たちが繰り広げていく群像劇が『マリア様がみてる』である。

 高等部に進学して、まだ姉を持っていなかったリリアン女学園高等部の一年生の福沢祐巳はある日、いつものようにマリア像にお祈りを捧げ教室に向かおうとするところを呼び止められた。呼び止めたのは、全校生徒の憧れの的である高等部二年生で紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの小笠原祥子だった。祐巳が驚いていると、祥子は祐巳のタイを直し注意をする。

 そんな二人の光景を、写真部でクラスメートの武嶋蔦子に撮られた事から、憧れの小笠原祥子から突然「姉妹宣言」をされ……。

 そんな感じで「マリア様がみてる」は始まる。


 本作品を知り得たのはいつだったか覚えはないが、思い出す光景が一つある。

 とある書店にて、弓具を肩にかけたポニーテールの女子高生が本棚を前に立っていた。猫背にならず背筋が伸び、凛とした佇まい。あきらかに彼女の周りだけ空気が違った。文庫本を手にし、ひとしきり読んだあと、元の棚に戻して颯爽と店を出ていった。

 一体何を読んでいたのかと気になり、彼女がいた棚の前へと向かった。

 たしかこの辺りだったかな……と、指をさしながら読んでいたであろう文庫本の背表紙を見る。

 それが『マリア様がみてる』だった。


 以前より、雑誌「Cobart」をみて作品は知っていたが、きちんと読んだことはなかった。

 このことをキッカケに読みすすめていくと、アニメ化の話が舞い込み、たのしくアニメを視聴したおぼえがある。

 どうしてこの作品に興味を持ったのかといえば、元女子校に通っていた影響が、少なからずあるかもしれない。

 描写が機械的で細かく動作を表現しているのが面白く、男っぽいおじさん風な文体は世界観にあった書き方だと思った。

「ごきげんよう」「スカートのプリーツは乱さないようゆっくり歩く」なので、走らずわざわざ早歩きで急ぐ。同級生は「~さん」、上級生は「~さま」、下級生は呼び捨てか「~ちゃん」などなど。リリアン女学院はお嬢様教育をしているところなので、いろいろと普通の女子校とはちがう。

 とはいえ、女子校は女子校。異性は教師か親兄弟、登下校で見かけるくらいなので(東京都武蔵野の丘の上にある男子校、私立花寺学院高校の生徒会交流も描かれている)、男子が求める女子像をあまり意識しないことから(マリみてのキャラは、頭が良くて美人で肌や髪がきれいで優しい女性たちばかりですが)、どうしてもサバサバしてがさつな傾向になりやすい。なので、作品の文体として合ってると感じた。

 なにより、姉妹制度がこの作品をより面白くさせているのは間違いない。

 対となる存在としてある男子校の花寺学院にも、源平制度や烏帽子親制度なるものがでてくる。正直言えば、男子校のほうはファンタジーに思える。(リリアン女学院も十分ファンタジーではあるが)それでも可愛い男の子はモテるから、男に。男子校はそういうところがあるので、すべてファンタジーといい切ってしまえないところも面白いところかもしれない。

 文体に影響を受け、真似をして勉強したおぼえがある。


「マリア様がみてる」全三十七巻と、「お釈迦様もみてる」全十巻は、十五年の歳月を経て幕を閉じている。

 もう少し続いてほしかったと思う反面、面白いとこまでで区切りとするのが最良の締めかもしれない、と思えた作品である。

 

 

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