『村上龍自選小説集・全8巻』

 村上龍の小説でおすすめしたいのは、「村上龍自選小説集・全8巻」である。


 日常をリアリスティックに描く作風が特徴で、現代アメリカ文学を代表する短編小説作家レイモンド・カーヴァーの作品を、一九八二年から二十年以上かけて全作品を単独で翻訳して「レイモンド・カーヴァー全集・全8巻」を刊行した村上春樹について、あーでもないこーでもないと流麗な文章で語った作品……ではもちろんない。


 いまはそうでもないのだけれど、彼が出した作品を立っては読み、借りては読み、買っては読みをくり返していた時期があった。だけど、彼の作品は気楽に読めるような代物ではない。どの作品にも共通しているのは、読者側に対して、これまでの考え方と生き方を試されるような趣があることだ。

「読みたければ読むがいい、そのかわり覚悟を決めろ」

 と言われているような(実際に本から幻聴は聞こえません)気になってくる。

 なのでこちらとしても身構えて、覚悟を決めなくてはならない。

 覚悟の一つとして、一冊一冊購入して読もうと思ったのだ。

 とはいえ、である。

 ハードカバーで買おうと思うと高いし、小説だけでなくエッセイも出していたし、対談もあるし、あれやこれやとなかなか購入できなかった。

 そこで活用したのが、皆さんご存知の公共施設、図書館である。

 二週間に十冊まで借りることができたものの、読むと決めたら一気に読み倒す性格なので、彼の小説やエッセイ、対談等、借りられるだけ借りて読みたかった。

 そのために県立、市立、町立、隣町の図書館などから大量に借りては読んでいった。早く読まないと、返却期限が来てしまうからだ。

 そんなに大量にどうして本を読んでいたのか?

 毎月必ず大量の本を読むことを、自身のノルマにしていたからだ。

 そう思った理由は、はじめて県立図書館を訪ねた日にあった。

 フロアの広さと各階に並ぶ本棚におさめられた膨大な数の書籍を前に興奮してしまい、「ここにある本を全部読んでやろう」と借り始めたのがそもそものキッカケである。とにかく近くの本棚から順番に読んでいくのだが、一日一冊のペースでは終わりそうにない。奥の棚まで順番に読み倒すためには少なくとも、一カ月に五十冊くらいは読まなければ無理だと、子供ながら考えたのだ。

 県立や市立は一度に十冊まで貸し出してくれるが、町立は五冊までだった。

 図書館のはしごもし、鞄に本を大量に入れ、借りて借りて借りまくって、読んで読んで読みまくっていた。

 そんなことをしていたので、この全集はありがたかった。

 ありがたかったのだけれども……できることなら、もっと早く出てほしかった。

 個別に借りて読んだあとで全集が発売したのだ。しかも、図書館の棚に並んだのはさらにずっとあと。

 すでに読んだことがある作品がまとめられている全集を読みながら、有り難いんだけれどももっと早く出てほしかったと思わずにいられなかった。


 この全集の特徴は、村上龍自身が選んで、全集にしているところだ。

 普通、作者が亡くなってから全集は出るものだ。

 なので、出版経緯が通常の全集が出る流れといささか異なっている。

 たしか彼のエッセイでも、そのことに触れて語っていたおぼえがある。

  

「69」「村上龍映画小説集」「限りなく透明に近いブルー」「KYOKO」「消費される青春」「トパーズ」「イビサ 」「ラッフルズホテル」「ピアッシング」「他者を探す女達」「村上龍料理小説集」「恋はいつも未知なもの」「ニューヨーク・シティ・マラソン」「悲しき熱帯」「寓話としての短編」「コインロッカー・ベイビーズ」「昭和歌謡大全集」「だいじょうぶマイ・フレンド」「破壊による突破」「海の向こうで戦争が始まる」「愛と幻想のファシズム」「戦争とファシズムの想像力」「エクスタシー」「メランコリア」「タナトス」「快楽と倦怠と死の独白」「オーディション 」「ラブ&ポップ」「インザ・ミソスープ」「ライン」「寂しい国の殺人」「ドキュメントとしての小説」「コックサッカーブルース」 「フィジーの小人」「超電導ナイトクラブ」「増殖し続ける細部」


 全八集を読むだけで、これだけの作品が読めるのだ。

 これから村上龍の作品を読もうとする人がいるなら、読みたい作品から読むだけではなく、全集で読んでみる選択肢もあることを頭の隅っこにでも留めておいてほしい。あとがきも読みたいのであれば、各文庫本等を読んでください。

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