『ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2』
村上龍の「五分後の世界」の次はやはり、『ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2』である。
小学生時、電気店のテレビに映っていた春の高校バレーボール大会に出場している烏野高校の「小さな巨人」に憧れてバレーボール選手を志した主人公は、中学時代は環境に恵まれず、まともに練習や試合をこなすことができなかったものの初の大会に出場。だが初戦で影山率いる北川第一中学と当たり惨敗。影山に「おまえを倒すのはおれ」と宣戦布告し、憧れの烏野高校へ入学すると影山と再会。結果、倒そうと思った相手がチームメイトとなり、強豪と渡り合っていく。高校卒業後は単身ブラジルへ渡り、ビーチバレーに励む。三年後に帰国し、ⅤリーグDivision1のMSBYブラックジャッカルのオポジットとして試合にも出場する「ハイキュー」の主人公【日向翔陽】についてあーでもないこーでもないと熱くバレーボール談義をする話……ではもちろんない。
太平洋戦争で日本が降伏せず、地下に潜伏しゲリラ戦を続けるアンダーグラウンドと呼ばれる世界。日本の人口は二十六万人まで激減しているが、高い技術や軍事力で世界から注目と尊敬を集めている。
前作「五分後の世界」と世界は同じだが、私たちが生きている世界から迷い込んだ小田桐の目を通して現代日本の強烈な批判をするようなものではない。
別のお話だ。
CNNのアメリカ人ジャーナリストが語り手として、「ヒュウガ村」付近で発生し、高級リゾート区「ビック・バン」に猛威をふるうウイルスを鎮圧するために派遣されたUG軍兵士に同行する物語だ。
ウイルスがテーマなので、生化学的な専門用語が非常に多く登場する。
「圧倒的な危機感をエネルギーに変える作業を日常的に体験」してきた人間だけが、ヒュウガ・ウイルスに打ち勝てる。
なので、現在世界中に猛威を奮っている新型コロナウイルスをはじめとするウイルスとはやや異なる趣きがあるものの、ウイルスや免疫の記載はリアルである。
老夫婦に質問したときに返ってきた言葉がある。
「一番大切なことはなんですか?」
「自分が大切に思う人間とともに、その日を生き延びることです」
「二番に大切なことなんですか?」
「大切なことを、それを知らない人に伝えることです」
至極、当たり前な言葉だ。
当たり前だが、当たり前ができていない人が多いのもまた、この国の当たり前になっている気がする。
本作品を読んだのは、「五分後の世界」の続きとして手にした。なぜなら、当時の私は、生き死にに強く感心があったからだ。
生物が死ななければならないのは、それぞれの種が生存戦略に基づいて進化、多様性を持続させるため。今の環境により適応した子孫たちに席を譲るため、親世代は死んでゆく。
人が死ぬことはプログラムされている。死によって新しい命に生きる環境を与え、死によって種の多様性を広げて生存確率を上げている。
子は親より多様性を持っている。
だが、親世代が残ればサイクルが回らなくなる。
先進国をはじめとした、現在の私たちの国にも当てはまる実状だ。
作者は折りに触れ、危機感をもてと言っている。作品も、破壊を描きながら日本社会への危機感を示してきた。
本作品も同様で、新型コロナウイルスが猛威を奮っている現在だからこそ、読むべき一冊だと思う。
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