『ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの』

 面白い児童書で思い出したのは、「ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの」著:ロバート・ウィンストールである。


 私立明堂学園中等部二年の花咲つぼみは、引っ込み思案の性格にコンプレックスを抱いていており、転校を機にそんな自分を変えたいと思っている。

 家族は、フラワーショップを営む両親と植物園園長をしている祖母と四人暮らし。

 幼い頃、仕事で忙しい両親の代わりに育ててくれた祖母の影響で、ことわざや四字熟語が妙に得意で「堪忍袋の緒が切れました!」が決め台詞。

 初登場の際、「敵を恐れ逃げ惑う」「力を制御できず自滅」といった醜態を見せてしまい、敵幹部サソリーナから「史上最弱のプリキュア」呼ばわりされてしまったキュアブロッサムのことをあーでもないこーでもないと語り尽くした作品……ではない。


 この作品、表紙を描いているのが宮崎駿である。

 この本を手にとった最大の理由だ。


 当初、福武書店から出版されていたが絶版となることを知った宮崎駿が他社で再販させて絶版の危機から救った作品である。

 再販に当たり、自身の紹介文や表紙のイラスト、描き下ろし漫画も掲載されている。おかげで、機内の様子や乗組員の位置関係などがわかりやすくなっている。これだけでも読む価値はあるし、小説自体も面白い。

 戦時下であるので内容はかなりハードな面もあり、「これが児童文学?」と考えてしまった。大人が読んでも堪能できる作品だろう。


 イギリスの作家ロバート・ウィンストールによる、大戦下の少年たちの友情と恐怖を描く「ブラッカムの爆撃機」(中編)「チャス・マッギルの幽霊」(短編)「ぼくを作ったもの」(掌編)を収録。

 晩年の六年間著者と生活を共にした女性リンディ・マッキネルによる略伝「ロバート・ウェストールの生涯」と、作品に惚れ込んだ宮崎駿監督がはるばるウェストールの故郷をたずねる、「ウェストール幻想 タインマスへの旅」を二十四ページのカラー書き下ろしが収録されている。




「ブラッカムの爆撃機」はドイツとの空中戦。イギリスのウェリントン爆撃機、通称ウィンピーをめぐる怪談話だ。

 第二次世界大戦下のイギリス空軍爆撃隊が舞台。

 ドイツを空爆するために爆撃機に乗り込んでいるのは、航空兵士養成学校を出たばかりのゲイリー十八歳。ゲイリーの他に四人いる爆撃機のクルーも十八歳だ。

 訓練が終わった者から爆撃手、機銃手、ナビゲーター、無線係、パイロットと列を作って並び、列の先頭から順番に上手い下手も関係なく、五人一組でどんどんチームを作らされ、「習うより慣れろ」と爆撃機に乗せられていく。

 新米の少年たちと、痩せた中年の機長が「ウィンピー」と呼ばれる爆撃機で出撃していく。

 敵の高射砲攻撃に撃ち落とされる恐怖の中、高度二〇〇メートルからの飽和爆撃をする。

 敵の攻撃や先輩の死からくる恐怖に飲み込まれそうになる少年たち。彼らを救うのは、機長だった。少年たちから「親父」とあだ名をつけられる彼が、「ハムエッグを食いに行こう」と田舎に連れ出し、自然の中で過ごさせ少年たちに穏やかな時間を取り戻させる。

 戦闘機に乗り込む様子が丁寧に描かれ、残酷でありながらも、ちょっとした会話のやり取りから楽しく感じさせてくれる。

 こういった戦争で直接死んだ人間はおよそ五万五千人。間接的に亡くなった人を含めると十万人くらい死んだという。その結果、ドイツに被害を与えたのは一万人に届かなかったといわれているそうな。

 戦争は実に無駄なことだと思える。

 好みの分かれる作品だ。


「チャス・マッギルの幽霊」は戦争がはじまったころ、エルムズ屋敷に移り住んだ少年チャスが、幽霊と出くわす話。


「ぼくを作ったもの」は、ウェストールが祖父から受け取ったものが書かれている。




 児童文学とは、「どうにもならない、これが人間という存在だ」という批判的なものではなく「生きてきてよかった、生きていていいんだ」と子供たちにエールを贈るものである。

 なので作中が戦時下や虐待、いじめや差別を扱っていても、そこに「生きていてよかった」と思えるものを書かなくてはならない。

 子供に「絶望」を説いてはいけないのである。

 

 コロナ禍であっても、児童文学は生まれていくだろう。

 そのときに絶望を描いてはいけない。そんなことを思い出させる一冊である。

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