『おじいちゃんとの最後の旅』

 スウェーデン作家の作品といえば、「おじちゃんとの最後の旅」著:ウルフ・スタルクである。


 チョット待って。

 なぜ、いきなりスウェーデン?

 それにスウェーデン作家といえば、女性初・スウェーデン人初のノーベル文学賞受賞者として名高く、かつての20スウェーデン・クローナ紙幣の肖像にも描かれたこともあるセルマ・ラーゲルレーヴが執筆した「ニルスの不思議の旅」(一九八〇年には、スタジオぴえろが制作したアニメがNHK総合テレビで放送された。全五十二話)や、「長くつ下のピッピ」「ロッタちゃんシリーズ」など数多くの作品を生み出し、全世界百カ国以上で読み継がれ、没年「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」が設立され、二〇〇五年には原稿や書簡類がユネスコの「世界の記憶」に登録されたアストリッド・リンドグレーンがいるじゃないか、と言われるかもしれない。

(「長くつ下のピッピ」は、演出・高畑勲、場面設計・宮崎駿、キャラクターデザイン・小田部羊一としてアニメーション化しようとして、なかでも宮崎駿はスウェーデンのゴトランド島まで交渉を兼ねた初の海外取材旅行にと、原作者が住む地へロケハンに出かけましたが、最終的には原作者の許諾が得られず、断念。このことがのちのに制作する「パンダコパンダ」の設定に影響を与える)


 至極ごもっとも。

 であるけれども、面白い本に出会ったんだからしょうがないじゃないか……。


 ウルフ・スタルクもまた、現代スウェーデン児童文学界を代表する作家だ。

「ニルスのふしぎな旅」の主人公の名前にちなんで創設され、最も優れた児童・ヤングアダルト作品又は作家に贈られる「ニルス・ホルゲション賞」を受賞。また、スウェーデン政府によって創設さた、スウェーデンを代表する児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの功績を記念し、ヒューマニズムの精神に満ちた優れた作品を生んだ者、あるいは児童・青少年の読書推進に貢献した者・団体に贈られる「アストリッド・リンドグレーン記念児童文学賞」をも受賞している。


 最初にウルフ・スタルクの本を手にしたのは、児童書で面白い本はないかと探していたときに偶然みつけたからだった。

 本のめぐり合わせである。

 薄かったというのもあるし、読んでみるとすんなり読めて面白かったということもあり、次から次へと彼の本を読んでいった。

 パーシーシリーズもまた、面白かった。にもかかわらず、この作者の本のことを周りで知る者はいなかったのである。


 彼は現代社会を映し出すテーマを扱い、自身の幼少期を題材にしたユーモラスな作品を多数書いている。

 短いものもあり、くどくど説明的ではなくて読みやすい。

 気がつくと読み終えてしまっているほど、引き込まれる話ばかりだ。

 男の子の、いいところもそうでないところも素直に描けているところが実にいい。


 そのうちの一つ、うそつきの暗いマイナス面をプラスに変えて明るく生きた作者の少年時代の物語「うそつきの天才」は、スウェーデンでも未発表の作品(日本語版がオリジナル)である。また、シェークVSバナナスプリット は、平成十四年度より、国語の教科書〈中学一年学校図書〉にも掲載されている。

 児童書扱いされているが、子供だけでなく大人も充分堪能できる作品ばかり。

 今回の「おじいちゃんとの最後の旅」は、祖父の話を書いたウルフ・スタルク最後の作品。

 頑固で怒りっぽく、汚い言葉を平気で使う祖父と、彼を慕う孫のぼく(スタルク自身)が企てたのは、病院や親に嘘をついて心臓を悪くして入院している祖父を連れ出して祖父の家へ一泊するというものだった。


 翻訳者は菱木晃子。

 スウェーデン法の研究者だった父の影響で、幼い頃よりスウェーデン文化に親しんで育った彼女は慶應義塾大学卒業後、スウェーデンのウプサラでスウェーデン語を学び、北欧の子供の本を中心とした翻訳を多数手がける。

 訳書に「セーラーとペッカ」シリーズ(偕成社)、「長くつ下のピッピ ニュー・エディション」(岩波書店)、「ニルスのふしぎな旅」(福音館書店)、「ステフィとネッリの物語」シリーズ(新宿書房)など。

 スウェーデン王国より北極星勲章受勲。

 Natur&Kultur翻訳者賞受賞。

 ウルフ・スタルクの作品も多数、翻訳されている。


 鮮やかですばらしい本の挿絵は、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞した絵本作家キティ・クローザーが手掛けている。

 この物語を書き上げたあと体調を崩した作者は、この挿絵を見ることなく亡くなった。タイトル同様、作者最後の作品となってしまった。


 素敵な作品をもっと書いてほしかった、そう思える作家の一人である。


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