『第五の山』

 困ったときなどに手を伸ばしたくなるのは、「第五の山」著:パウロ・コエーリョである。


 イエス・キリストに任命された十二弟子(イスカリオテのユダの離脱後、マッテヤという弟子が加えられた)のほかに、パウロとバルナバが聖書で「使徒」と呼ばれているが、パウロが使徒となったのはイエスが十字架にかかって死によみがえって天に昇ったあとであり、それまではキリストの信者たちを迫害する者であった。そんな迫害者から伝導者へと至る話をあーでもないこーでもないと語り綴った作品……ではもちろんない。


 作者であるパウロ・コエーリョは敬虔なカトリック信者であり、彼の作品の多くがキリスト教の色彩と神秘主義的な香りがある。

 この物語は、旧約聖書の列王記に出てくる預言者エリヤを主人公に、人の意志と再建を描いた物語である。

 また、作者は「宗教にとらわれず、再建の物語として読んでいただきたい」とメッセージを添えている。

 うまく行っているとき、どういうわけか邪魔するような出来事にさいなまれるときがある。ある人は乗り越え、ある人は立ち直り、ある人は諦めてしまう。

 なにかを学ばせるために人生には避けられない出来事が必ず起き、自らの運命や使命だと知って挑み勝った者だけを、神は祝福するのだ。

 

 この本に出会ったとき、私は困窮していた。

「本屋ほど最良な医者はない」と誰かが言っていたのを思い出し、足を運んだのである。

 ある書店の本棚に納まっていた一冊のこの本を手にしたのは、私自身が求めていたからだし、この世の理が働いたせいかもしれない。

 手に取る前から作家の名前は知っていた。

「アルケミスト」の作者である。

 アルケミストも本棚に並んでいたが、文庫版のアルケミストの表紙が愛蔵版の表紙に比べて明らかに残念なものに変わっていたため選ばなかったのを覚えている。

 その隣りにあった『第五の山』を遠慮なく手にしたのは、そんな理由もあった。

 書籍の表紙がいかに大切であるか、身をもって知った作品である。


 再建――コロナ禍にあって、誰もが求めている。

 乗り越えたとしても、それぞれの人生にそれぞれお不可避な出来事はかならず訪れる。そんなときのためにも読みたい一冊である。

 

 

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