『獣の奏者シリーズ』

 それでも異世界ファンタジーもので忘れてはならないのは、「獣の奏者シリーズ」著:上橋菜穂子である。


 守り人シリーズを読んでいるときに「獣の奏者I 闘蛇編」「獣の奏者Ⅱ 王獣編」を読んだ。

 これで終わりか、このあとどうなるのかしら……と思いながら、すっかり忘れた頃、「獣の奏者Ⅲ 探求編」「獣の奏者Ⅳ 完結編」「獣の奏者 外伝 刹那」が刊行されて読むことに。


 小説から入ったので、その後放送されたアニメ「獣の奏者 エリン」をみて、世界名作劇場的な作りに戸惑いを覚えたことを憶えている。

 作者が製作発表時の記者会見にて、「『21世紀のハイジ』を目指した」と話している。子供の視点からみた世界を丹念に描いて、明るさと重さ、単純さと複雑さ、子供の物語と大人の物語、といった物語が持つ対極の要素の両方を大切にしながら子供が楽しめるアニメに、という思いからだそうだ。

 ハイジの良さは、制作スタッフのうちの4人(高畑勲氏、小田部羊一氏、宮崎駿氏、中島順三氏)が、スイスで約十日間ロケハンを行ったこともそうだが、アニメーションの本流への復帰を目指したところが大きいと思う。

 非日常的な緊張に満ちた特異な世界に子供を誘い込む作品が多い中から、子供の日常生活、等身大の実生活に基盤をすえ、平凡な子供らしい欲望や幼稚さ、主人公の行動描写から直接生まれる楽しさや面白さ、行動の過程の中にひそむ面白さへの復帰である。

 子供たちの想像力をふくらませ、遊びの解放感と発見の喜びを味わわせる表現が、ハイジにはあった。

 ハイジは良くできた作品――誰もがそう思っているが、制作した高畑勲氏は「余りにも大人の理想とする『よい子』に描きすぎたのではないか、もっとありのままの子供像を描くべきでは」と反省し、その後の作品へと影響を与えていったようだ。

 エリンとハイジのアニメと比べると、その差は歴然である。

 アニメはさておき小説では、子供だったエリンが母となっていく半生が描かれているが、ほのぼのとしたシーンよりも危機にさらされたり苦悩しているシーンが多かった。

 アニメ化するなら、最後まで描ききってほしかった。


 とはいえ読んでいて思ったのは、当初は 闘蛇編と王獣編で終わるつもりだったのではないかということ。

 調べると、作者にとって物語の結末は「王獣編」のラストシーンが究極のものであり、これ以上物語が続くことはないと考えていたため全二巻完結だったという。

 しかし、である。

 周囲から「続きを読みたい」という声が数多く寄せられ、またアニメの制作に関わったこともあり、自身も物語の中で描ききれなかった謎への決着を付けたいという思いが生まれた結果、続編となる「探求編」「完結編」「獣の奏者 外伝 刹那」が刊行されたそうだ。


 蛇足にならずに出来上がる作品もまた、いいものである。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る