『ハイジが生まれた日――テレビアニメの金字塔を築いた人々』

 アルプスの少女ハイジを見た人ならば読んでみたくなるのが、「ハイジが生まれた日――テレビアニメの金字塔を築いた人々」著:ちばかおりである。


 著者ちばかおりは日本ハイジ児童文学研究会所属し、海外児童文学およびテレビアニメーション、とくに「世界名作劇場」シリーズを研究。他には「高畑勲をよむ : 文学とアニメーションの過去・現在・未来」「世界名作劇場シリーズメモリアルブック」「世界名作劇場への旅」「The世界名作劇場展」「図説アルプスの少女ハイジ」 「『ラスカル』の湖で」「サウンド・オブ・ミュージック物語」「図説ヴィクトリア朝の子どもたち」などの書籍がある。


 プロデューサーだった高橋茂人と「アルプスの少女ハイジ」の誕生物語。

 高畑勲や宮崎駿、あの人もこの人も制作に関わっていたのかと驚きとともに堪能できる一冊。

 何気なく見つけて、何気なく手にとって拝読した出会いはまさに僥倖だった。

 子供の頃は、ただアニメを見て楽しんでいるだけだった。

 なので、裏側について深く考えも至らなかった。

 制作スタッフのうちの四人(高畑勲氏、小田部羊一氏、宮崎駿氏、中島順三氏)が、スイスで約十日間ロケハンを行っている。

 ハイジでは、作者のヨハンナ・シュピリになりかわって大量のオリジナルエピソードが創作された。前半部のアルムの山小屋での生活描写は原作の数倍、四季が丁寧に綴られている。秋の山葡萄狩り、小鳥のピッチーの飼育と別れ、嵐の木に集まる動物たち、雪ぞり競争などの話には、詩人ゼリーナ・ヘンツの物語にアロイス・カリジェが挿絵を担当したスイスの絵本「フルリーナと山の鳥」「大雪」の影響がある。

 創作エピソードの追加によって、キャラクターの性格が改変されている点であげられる。物語の後半、クララはハイジを慕ってアルムを訪れるが、原作ではこれに同行するのは優しいおばあさま。最初からおじいさんと意気投合してクララは問題なく山小屋に預けられる。高畑演出では、クララに同行するのは家庭教師のロッテンマイヤー女史であり、都会生活とのギャップに何かと問題が発生した。

 ペーターはクララにハイジを独占されることに腹を立て、車椅子を崖から突き落とし壊して以降、ずっと罪の意識にさいなまれ、物語の最後に宗教的な免罪が語られるが、高畑はこれを丸ごと変更。ペーターはクララを気遣って牧場まで背負って登る優しい少年と改変し、ペーターをめぐる「罪と罰」の訓話的要素が取り除かれ、底抜けに明るい子供たちの遊びが描かれたのだ。


 そんな話よりも、オープニングがどうやってつくられたのかという話が面白かった。制作に携わった人達の、ハイジへの情熱は凄まじい。


 大人になったから楽しめる、そんな一冊だと思う。

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