『ハイジ』

 名作といって思い出すのは、「ハイジ」著:ヨハンナ・シュピリである。


 いやいやいや~、名作といったらドフトエフスキーの「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」だろ。それより夏目漱石の「こころ」や「坊っちゃん」を選ばないのはおかしい。村上春樹の「ノルウェイの森」や「風の歌を聴け」を読め……。

 などなど、やいやのやいのと自分の推したい作品を上げる声が聞こえてきそうだ。

 読むべき名作は他にもあるじゃないか、といわれるのは重々承知している。

 けれども、驚くべきことに世に名作といわれる作品は数えるのもいやになるほど存在するし、その中からどれか一冊を選んだところで選ばれなかった作品を推したい人から「あ~だこ~だ」と文句を言われるのがオチである。

 であるならば、日本で子供に見せたい名作アニメで真っ先にあがる「ハイジ」を思い出すのは、ごくごく自然な流れではないだろうか。


 ハイジを知ったきっかけは、アニメの再放送だった。

 ジブリ作品を見るたびに「またハイジなんかみて」と親に言われた記憶がある。そのたびに「ハイジではなくトトロです」「千と千尋です」「魔女宅です」「ラピュタです」と教え、世界名作劇場をみても「またハイジ?」といわれる始末。

 絵柄は似てなくもないけれども、それだけ親も知るほどの作品だと裏付けていいだろう。

 原作本があると知るのは、中学生くらいになってから。

 読んでみると、キャラクターの造形や後半の内容など、アニメと異なっている点に気づく。宗教色が強く描かれているのも特徴だ。なにより、アニメではあまり語られなかったオンジのことがわかる。

 七十歳くらいのアルムおんじは「放牧地のおじいさん」という呼び名であり、名前ではない。

 スイスの東部に位置するグラウビュンデン州にあるドムレシュク村で一番の農園を持つ裕福な家に生まれ育った彼は、突然旅にでかけたり素性の知れない悪い仲間と付き合ったり、と仕事もせず、あげく全財産を博打と酒につぎ込み破産してしまう。

 とんだ道楽息子である。

 それを知った両親はショックのあまり病に倒れ、相次いで亡くなってしまう。その後、村を出て放浪生活を経てイタリア南部にあるナポリで傭兵として雇われた彼は、些細なことが原因でケンカとなり殴り殺してしまった、という噂だ。

 その後、グラウビュンデン州出身の女性と結婚し、息子トビアスが誕生するも間もなく妻は病死。息子と共にスイス東部グラウビュンデン州にある町マイエンフェルトの近郊にあるデルフリ村(デルフリ村は架空の村であり、ローフェルス村をモデルにしたといわれる)で大工をしながら暮らすようになる。

 やがて息子トビアスが村娘アーデルハイドと結婚、孫ハイジが生まれた。ところが、仕事中梁が落ちてくるという事故が原因で息子トビアスは亡くなり、そのショックから息子の嫁アーデルハイトは夢遊病となり夫の後を追うように亡くなってしまう。

 ハイジの両親の死をめぐって、神を信じず危険な大工仕事をしていたからだと村人から避難され、牧師から懺悔するよう促されるも拒否。村人との交流を絶って村を出て、山に登り山小屋を建てて一人で暮らすようになったのだ。

 

 そんなアルムおんじをはじめ、周りの人たちを変えていったのがハイジだった。

 この作品を読んでアニメにしたいと思った人がいたから、今日も知られるアルプスの少女ハイジが生まれたのだろう。

 読む人の心を豊かに変えさせる、そんな作品の一つである。

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