『神秘の島』

 ふと思い出した作品は、「神秘の島」著:ジュール・ヴェルヌである。


 南北戦争最中のアメリカはリッチモンドにて南軍に捕虜として捕らえられていた五人の北軍支持者たちが気球を使って脱出を試みるも、気球は海上で制御を失い一行は太平洋の無人島に漂着。技師のサイラス・スミスを中心にリーンカーン島と名付けた無人島を開拓して生活していく大人の冒険小説である。

 マッチ一本ない島で火起こしから始まり、レンガや陶器、石鹸に衣服、かご、鉄、ガラス、電線をも作り、さらにはニトログリセリンを使って爆薬を作り、花崗岩を打ち砕いて湖の流れを変え、洞窟を発見する。やがて畑を耕し野菜や麦畑を作り、島の動物を飼い、襲ってきた海賊をも蹴散らし、病気も乗り越え、たくましく島を開拓していく。

 無人島サバイバル作品でもあり、今で言うなら「Dr.ストーン」を彷彿させる作品でもある。

 また、「海底二万里」に登場したネモ船長や「グラント船長の子供たち」に登場したエアトンなども登場するため、「グラント船長の子供たち」「海底二万マイル」「神秘の島」で三部作ともいえる。

 なので、できるなら「海底二万マイル」「グラント船長の子供たち」を読んでから「神秘の島」を読むと、より楽しめる作品だ。

 ただ、作中の年代が微妙に違うところがあるので、矛盾が生じている。それでも作者としては、この三角品でまとめたかったのだろう。細かいことは気にならないなら、温かい目で読んであげてほしい。

 というわけで、この神秘の島にはネモ船長が出てくるし、ノーチラス号の寄港島でもあり、火山活動により島が吹き飛ぶことを知らせてくれたため、一行は脱出することができたのだ。

 ちなみに、庵野秀明監督の「ふしぎの海のナディア」はこれらの作品を原案にしているものの、共通点は少ない。

 エアトンやネモ船長、ノーチラス号が出てくるところと、後半の島編や島の名前がリーンカーン島と名付けられるのも、この作品「神秘の島」からだと思われる。

 なので、ジュール・ヴェルヌのこれらの小説を読んでからナディアを見ると、多少は楽しめるのかもしれない。(読まなくてもアニメは色々楽しめる)


 ジュール・ヴェルヌが十一歳のとき、初恋の相手である従姉のカロリーヌにサンゴの首飾りを買ってあげようと、密かに水夫見習いとしてインド行きの帆船に乗船したが父に見つかり、「もうこれからは、夢の中でしか旅行はしない」と言った逸話の真偽は定かではないものの、彼はその言葉どおり、作品の中で数々の旅をしたのだ。


 作品作りは夢への旅行だということを思い出させてくれた、そんな作品である。


 

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