『しゃばけシリーズ』

 和風ファンタジーといえば、「しゃばけシリーズ」著:畠中恵を忘れてはいけない。


 愛知県名古屋市千種区の東山動植物園で飼育されているニシローランドゴリラ。メディアなどで「イケメンゴリラ」として取り上げられることで知られるシャバーニの魅力をあーでもないこーでもないと熱く語られる和風ハイ・ファンタジー……ではもちろんない。


 しゃばけ(娑婆気)とは、 俗世間における名誉や利得などの様々な欲望にとらわれる心のことである。

 そもそもサンスクリット語で大地を意味するサハー(sahā)を、仏教では煩悩がもたらす苦しみに耐え忍ぶ人間世界をいい、中国語で音写して「娑婆」という漢字にあてて「しゃば」と読むようになった語だ。

 そこから、身体を拘束されている人たちや軍人や兵士から見た一般の社会を指す意味として、「しゃばの空気はうまい」などと用いられるようになった。

 とはいえ、俗世間自体があらゆる苦しみを耐え忍ばなければならない牢獄そのものなのだ。

 それでも、牢獄や軍隊生活など拘束された不自由な環境よりはマシだという程度であって、極楽や楽園などといった良い意味はない。


 それはさておき、この作品を知ったのもやはりNHKラジオドラマだった。

 時は江戸時代。

 大店である廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の跡取り息子である一太郎は、生まれながらの虚弱体質ですぐ寝込んでしまうため、両親や兄やたちには過保護に育てられ、本人は周囲に心配をかけることを心苦しく思っている。

 祖母おぎんが妖であるため、妖怪を見たり話したりできるものの、それ以外に特別な力は受け継いでいない。

 若だんなに仕える佐助と仁吉も妖で、いろんな妖と協力して謎解きもする、時代物ファンタジーである。

 読み進めていくと、一太郎や周りのことがだんだんわかっていく。さらに続けて読むと、ストーリーがパターン化されているので飽きが来てしまうため、適度に休読期間を設けて読み続けることが望ましい。

 なにぶん、江戸時代はなにかあると「妖怪のせい」にしていたので、題材としては適していると思う。

 ラジオドラマのあと、ドラマ化され、舞台化もされた。

 現在十九巻と、ビジュアルブック「みぃつけた」と文庫オリジナルの外伝「えどさがし」の二冊、しゃばけ漫画も二冊が刊行されている。


 ゲゲゲの鬼太郎とは違った、妖怪ファンタジー作品の一冊である。


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