『守り人シリーズ・旅人シリーズ』
やはり異世界ファンタジーもので忘れてはならないのは、「守り人シリーズ・旅人シリーズ」著:上橋菜穂子である。
「ゴルゴ13」で有名な「さいとう・プロダクション」の原作者公募に合格してのちに独り立ちして描いた、柳生一族の手によって妻を含む一族を皆殺しにされた剣士、拝一刀が、幼い息子・大五郎の子守をしながらさすらう復讐の旅物語『子連れ狼』である原作者の小池一夫の話をあーでもないこーでもないと熱く語り尽くす物語……ではもちろんない。
この作品を知ったのも、NHKラジオドラマだった。
荻原規子さんの勾玉シリーズはたしかに面白かった。他の作品もよかったけれども、少女向けな作品だと感じた。
いつまでも子供でいられないので、大人でも読めるような和風ハイ・ファンタジーを読みたい気持ちが強くなっていた時期だったと思う。
当時の児童文学は一般的に子供が主人公なものが多かったし、いまも多く感じる。
三十歳の女用心棒バルサを主人公とする守り人シリーズは型破りであるが、だからこそ大人も読める作品なのだ。
旅人シリーズはチャグムを主人公とした物語で、最後二つのシリーズはひとつに繋がっていく構成だ。
十巻プラス外伝三巻の壮大な物語は読み応えがあるばかりか、作者のこだわりがわかるのは、とくに言語である。国によって異なり、宗教も異なっているところが凄まじく、作品を重厚に感じさせている。。
よくある異世界ファンタジー作品では、英語がよく使われているけれども、既存の言を異世界に持ち込むと世界観が損なわれてしまうことは多い。
この作者は言語にこだわって作っている点が素晴らしい。
作者は文化人類学者としてアボリジニの研究などもされている。
彼女はファンタジーを書いているという意識はないという。意識の変容状態を垣間見させるようなものが描けるのもファンタジーの特徴だとしながら、そういう理屈で書いているのでもなさそうだ。
アニメ化されたときは、監督の意向で外国とのつながりもあるだろうからと何故か安易に英語を喋らせていたおかげで、世界観が損なわれた気がする。
ファンタジーである守り人シリーズを人類史に即した場合、年代はいつに当たるのだろう。
ちなみに英語にも古英語、中英語、近代英語の三つに分けられる。
古英語またはアングロ・サクソン語は、五世紀にドイツからイギリス諸島に移住し始めた部族によってもたらされたゲルマン的な言語だ。
守り人シリーズが五世紀前の世界観ならば、現在の英語はそぐわないのはもちろん、作品世界はみるからに近代でもなかった。
そもそも架空の世界なので、私たちの世界の歴史とは別だと考えるのが自然だ。
安易に使うと物語が醸し出す世界を壊してしまうばかりか、作品にのめり込んでいる人達を冷めさせてしまう。これは作り物なんですよ、といった制作意図のある演出ならば構わないのだが。
歴史を見ても、外国の文物が入るだけでは他国の言語が使われない。他国の人間が自国の中に入ってきて交流したり、違う人同士が思考や民族性の違いを理解するときにはじめて他国の言語が使われるもの。なので、ファンタジー作品を重厚にするには独自の文化や歴史を深く作り込む作業が必要だ。
L’Arc~en~Cielが歌うOPは良かった、と記憶している。
主演綾瀬はるかのドラマ化もされた。
女用心棒をやってきたという感じには見えなかったけれども、柔らかいものを食べている現代人には、作品に適した俳優はいないのはわかっている。大河ドラマや時代劇でも指摘されたことなので、温かい目で見て楽しむことが寛容である。
こんなに素晴らしい作品がもっと増えればいいな、と思えてしまう作品である。
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