『コリーニ事件』

 海外もので思い出すのは、「コリーニ事件」著:フェルディナント・フォン・シーラッハ、東京創元社・酒寄進一訳である。


 首周りの豊かな毛並みと細長い顔立ちがエレガントな犬種ラフ・コリー。そんなコリーに・・・・似た小型で飼いやすい犬種、シェットランド・シープドッグを中心に描かれる、奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用の手に汗握るドッグファイトラブコメディ……なわけではなく。


 ドイツ出身の作者シーラッハは、ナチ党全国青少年最高指導者、ウィーン大管区指導者を歴任したナチ独裁政権の中心人物のひとりである「バルドゥール・フォン・シーラッハ」、その孫である。

 彼は刑事事件弁護士として活躍する傍ら、執筆した「犯罪」が本国でクライスト賞、日本で二〇一二年本屋大賞・翻訳小説部門で第一位を受賞。

 二〇一〇年に「罪悪」、二〇一一年に初長篇となる「コリーニ事件」を刊行した。

 シーラッハは「ドイツ政界を揺るがすスパイ事件や、映画俳優クラウス・キンスキー名誉毀損事件など、社会の関心を呼ぶ事件を多く手がけてきた」人物だと、あとがきにも書かれている。

 現役の弁護士だけあって法廷シーンはリアル。

 作者の生い立ちが多分に作品に反映されており、本書がドイツでベストセラーになったことをきっかけに、作中で指摘された「法律の落とし穴」を見直すため、実際に二〇一二年にドイツ連邦法務省は省内に調査委員会を立ち上げた。

 作品の良さもさることながら、現実にドイツの法律の見直しが行われたというところがまた凄い。

 小説が、現実社会に変化を与えたのである。

 二〇一九年には映画化され、日本では二〇二〇年に上映された。

 

 この作品を、ネットで知り合った友人から勧められて読んだ。

 当時、ミステリーを読み漁っており、なにか面白い作品はないかと訊ねたところ、教えてくれたのである。

 そうか、あの作品が映画化されていたとは、コロナ禍だったこともあって知らなかった。


 コリー犬のことよりも、そんなことを思い出す作品である。


 

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