第50話 エイグ
エイグは今日の出来事を夢のように感じていた。
ランバダと八年ぶりに会った。国王軍の制服を着ていて、とても驚いた。みすぼらしい自分の姿を思えば、ランバダに気づかれたくなくて、走って逃げようとした。
だが、彼は気がついていた。追ってきて、何があったのか問いただして、助けようとしてくれて、本当に助けてくれた。
エイグはランバダをいじめていたのに、ランバダが幼なじみだと言ってくれた時、エイグは驚くとともに胸を突かれた。本当は
ランバダはエイグのために泣いてくれて、心が
そして、その優しさはとても大切なことだ。今のエイグにはそれが分かる。子供の頃のエイグは生意気で、何も分かっていなかった。だから、腹を立てるジャビスの気持ちも分かりはする。だからと言って、許しはできない。
ランバダが来てくれたことは
そう思うと、エイグはいてもたってもいられなくなった。
エイグは今、保護されたカートン家の施設にいる。エイグの心情を考えて、ルイスがつきっきりで世話をしてくれた。
風呂に入れてくれて、体をきれいにして貰った。
与えられた部屋は個室で、殺風景にならないよう、絵や花が飾られていた。ただ、自殺をはからないように、ガラスや陶器は使われていない。布団も心が落ち着く、花のいい香りがした。少し前まで、ルイスがいてくれて、竪琴の演奏を一緒に聞いていた。
エイグは久しぶりに体が暖まり、お腹も一杯になって、美しい音楽を聴いて、心が落ち着いたせいか、眠くなった。一時、少しは眠ったはずである。
だが、途中で目を覚ましてしまい、少しの間、自分がどこにいるか分からなくて、混乱した。
そして、何度も夢を見ているのではないかと、自分の置かれた現状が信じられなくて、確認してしまった。そんな事をしていたら、すっかり目が覚めてしまい、全然寝付けなくなり、突然、
だから、ランバダの事を思い出して、心を落ち着かせようとした。でも、だめだった。昼間にされた事を思い出し、それを見られてしまった事が、想像以上にエイグの心を傷つけていた。勝手に体が
エイグは寝台の布団を被って潜り込んだ。少し離れた小机の上に置かれたランプの火は
一人で寝台に寝るのは久しぶりだ。物置小屋には寝台などなかった。誰かに見られる視線が嫌で、一人でいたかったのに、今では一人でいるのが怖かった。
誰か他の人がいれば、何かされるんじゃないかと怖くなる。だが、誰もいないと、ぽつんと世界に取り残されて忘れさられたような気がして、怖かった。
何かあったら、呼び鈴を鳴らして呼ぶんだよ、とルイスに言われていたが、エイグは怖くて体を動かせなくて、布団の中で震えていた。
エイグは必死で心を落ち着かせようとした。あれは、もう、過去の出来事なんだ、今は何もされていない、そう、必死で自分に言い聞かせた。
でも、寝台は嫌な思い出と
ふっと、ランバダが泣いてくれた顔を思い出した。そうだ、助けて貰ったんだ、これは夢じゃない。現実の事、本当の事なんだ。大丈夫だ。布団から
ランプの灯が辺りを照らしている。ほら、大丈夫だ。エイグが自分に言い聞かせた時、ふっと、後ろに影がさした気がした。
「だ、だれ?」
気がつくと、エイグは外に立っていた。なぜ、立っているのか記憶がなくて、分からなかった。そういえば、時々、こういう状態になる事があった。頭がぼんやりして、それなのに、
エイグは震えた。戻ろうにも、ここがどこか分からず、どうやって戻ればいいか分からない。しばらく立ち尽くしていたエイグだが、必死に理性を総動員して、体を動かそうとした。
どうやって上って来たのか、全く記憶がなくて、気味が悪い。木の高さからして、三階はあるだろう建物の屋上のようだ。
頭がぼんやりして、宙に浮いているような感覚があり、とても怖かったがゆっくりと辺りを見回し、降りる場所はないか探そうとした。
その時、雲が月を隠し、辺りが真っ暗闇になった。体が恐怖で
(!)
エイグの悲鳴は声にはならなかった。誰かに口を
恐怖で頭が真っ白になった。泣きながら必死で
ここは屋上で、走ったらいけない、という事は恐怖で忘れていた。ただ、必死にこの恐怖から逃れたかった。
エイグの足が空をかいた。あ、と思ったが声にも出せなかった。耳元で風が空気を切る音がする。
なぜか、怖いと思わなかった。これも、夢かもしれない。そんな事を思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます