第5話 友達

 ランウルグは今まで住んでいた所よりさらに、田舎に移り住んでいた。

 襲撃しゅうげき事件があってから、数日後に移動した。父のグイニスが、本当はその晩に移動するように指令を出した。ちょうど、グイニスが帰ってくる日だったのである。

 久しぶりに会ったばかりだったのに、すぐに離れ離れになるのが嫌で、ランウルグは一緒にいたいと駄々をこねた。

 優しいが厳しいグイニスも、自分に抱き着いたまま泣き疲れて眠ってしまった我が子を見て、無情な事は言えなくなった。

 数日、一緒にいてばらばらに出発した。一緒にいてまとめて襲撃されればひとたまりもないからだ。いかに優秀な護衛がいようとも、できるだけ危険は避けたい。

 馬車に揺られながら、グイニスは従兄の事を考えた。陛下は私のことをどう思っているのだろう。以前は親しかった間柄でも、離れている時間が長すぎた。王であるタルナス自身よりも、他の者達が許さないのかもしれない。同じ王族でも一枚岩ではないし、何より八大貴族がいる。

 以前に謁見した時は敵意は感じず、むしろ好意的だった。グイニスの直感として、タルナスの本心だと思う。それが、おそらく周りの者達にとっては脅威きょういに映ったのだ。

 グイニスは馬車に揺られながら、考えていた。ランウルグは今頃、どうしているだろうか。ちゃんと無事に着いただろうか。誰にも知られぬようにフォーリが工夫して屋敷の売買をして、新しい隠れ家を確保していた。

 ランウルグをできるだけ、最短で到着させるように指示してあった。今までより、格段に田舎だ。ライノ森のすぐ側である。古い貴族の別荘を商家が買い取り、作り直して売りに出したが、あまりに田舎で買い手がつかず、破格の値段で売りに出されていた。

 以前の別の隠れ家を売りに出して得た資金でおつりがくるほどだった。場所が分かられるのが嫌だったので、グイニス自身はその屋敷を自分で見ていない。フォーリに任せてあった。フォーリに任せて今まではずれたことはない。

 グイニスは窓の外を眺めた。進んでいく木々の隙間から、空が見えた。くもっていた。時折、晴れ間は射すが、この分だと早ければ夕方から遅くとも明日の朝には雨が降るだろう。

 ランウルグはおそらく、天気が悪くなる前に新しい隠れ家に着くはずだ。


 ランウルグは新しい屋敷に到着する前からはしゃいでいた。今までにないほど田舎なのだが、かえってその方が嬉しかった。

 なんといっても、景色がきれいだ。光に輝く薄黄緑色の若葉が、木々の枝々から芽吹き始め、固い地面から顔をのぞかせている野草から茎が伸びて、日当たりの良い所ではつぼみがほころんで、花を咲かせている。

 馬車の窓を開けて、大きく息を吸った。湿った土の匂いがする。少し湿ったような、澄んだ空気が心地よかった。何度も大きく深呼吸していると、鼻の頭が冷たくなった。その代わりに、体中がじんわり温かくなる。

「くさっ。」

 ランウルグは思わず鼻をつまんだ。大便のようなくさいにおいがした。

「何?このにおい?」

 隣のブルエに目を向ける。

「なんだと思いますか。」

「えー?動物のうんこかなあ。馬車が車りんでふんじゃったとか。」

 ブルエの口元がなんとなく笑っている。

「その可能性もありますね。でも、私はいのししだと思います。もし、しばらくたっても消えなければ動物のふんでしょうし、じきににおいが消えれば猪でしょう。」

 ランウルグは目を丸くした。

「いのししってきばが生えたぶただよね。いのししってこんなにくさいんだ。」

 ブルエが口元に拳を当てて、笑いをかみころしていた。

「そんなに、おかしい?」

「いいえ、ただ、若様の言葉がとても実感がこもってたので。…思い切りかいでしまったのですね。」

「うん。だって、こんなにくさくなるとは思わなかったんだもん。ねえ、ブルエはいのししを見たことある?」

「はい、ありますよ。村で狩っていましたし、歩いているのを見たこともあります。あれの牙に突かれたら、死んでしまうことだってあります。危ないですから、気を付けないといけません。」

 故郷はとても田舎で、森の子族の村との境に住んでいたというブルエの言葉は、説得力があった。

「へえ、そうなんだ。じゃあ、気をつけないとね。ね、いのししってぶひぶひって、なくのかな?」

「はい、基本的には。鳴き声は豚と変わらないと思いますよ。」

 のんびりとランウルグとブルエの会話は続いていく。

 やがて、木々の向こう側に赤茶色の瓦の屋根が見えてきた。三角の赤い屋根の瓦に日の光が反射して、きらきらとまぶしい。

「屋根が見えた!」

 何でも無いことの一つ一つにランウルグは、はしゃいで大きな声を出した。

 道が曲がっていて、一旦、屋根は木々のトンネルで見えなくなった。木漏こもれ日がき出しの地面の道に玉模様を作っている。

 ガタゴトと馬車がねる。長く座っているとお尻がどうしても痛くなる。もうじき、そんな旅も終わるのだ。

 それだけで、ランウルグは嬉しかった。旅は嫌いではない。違う場所を見るのはむしろ、好きだ。しかし、いつでも命の危険を心配しなくてはならなくて、心から落ち着いたためしがなかった。街の中を一人で歩いたこともない。人ごみは危険だとブルエが決して許さないからだ。

 仕方なく街を歩かなくてはならない時は、頭巾、帽子、傘を被るか、もしくは事前に髪を染めるかして、変装しなくてはいけなかった。

 それでも、ランウルグが街を歩くと人目を引いた。よく、女の子に間違われて、「かわいいわね。」と言われたり、店の客引きが護衛のブルエに女の子用の服や靴なんかを売りつけようとして、にらみつけられてすごすごと引き返したりしていた。

 だから、ランウルグにとって街は緊張する場所だ。それよりも、自然の中にいる時のほうが、落ち着けた。それに、自然の森や野原にいる時のほうが、刺客に狙われても助かりやすいような気がしている。

 ランウルグの以前の護衛は二人とも、追われて仕方なく街を逃げている時に、殺された。三歳と四歳の時の話だが、鮮明に覚えていた。二人の腕が決して劣っていたわけではない。ブルエに決して引けは取らなかったはずだ。

 今のランウルグは自分でできることは自分でできる。走って逃げることだって出来る。だが、三歳と四歳の時はもっと走れなかったし、何が危険なのか状況をよく分かっていないことも多かった。必然的に護衛がランウルグを抱き抱えて走って逃げ、そのまま戦うしかなかった。

 それが、その二人の仕事だったとはいえ、自分のために命を失ったと分かっている。それがいつも心の中のどこかに必ずあって、ふとした時にブルエもいつかそうなってしまうんじゃないか、と心配になる。

 ブルエはいつも、ランウルグがそんな心配をしなくていいように、刺客が現れるたびに絶対的な強さで打ち勝ってきた。気を使ってくれて、彼がわざと勇ましいことをランウルグに言っているのも分かっている。

 だから、田舎に来たのは喜ばしい。人目に付きにくいことは、安全性が高まることでもあった。

 ブルエも自然の中にいる時は、心なしかのんびりしている様子だ。彼の仕事、そして、多くの父のグイニスに使えている家来達、使用人達がより安全で楽になるのはいいことだ。

 そして、ランウルグ自身が一番、のびのび遊べるんじゃないかと期待していた。

(だれか友達ができるかな。少しはなれた近所にいたらいいんだけど。そしたら、馬にのって遊びに行くんだ。)

 ランウルグは、木漏れ日が落ちて道に作る玉模様の地面を見つめながら、その時のことを夢想した。

「若様、どうかしましたか。」

 突然、黙りこくったのでブルエが尋ねた。

「馬にのって遊びに行けるかなって、考えてたんだ。…ブルエは行けるって思う?」

 ブルエはランウルグの護衛なので、たとえ、執事のモルサが許可を出しても、ブルエが許可しなければ遊びに行くこともできなかった。だから、ブルエの意見は重要だ。

 ブルエは優しく微笑んだ。その自然な表情をランウルグは見つめた。やはり、街にいる時よりも表情が優しい。移動中はずっとぴりぴりして気を張り詰めていた。

「さあ、どうでしょうか。しばらく様子をみて、安全が確認できるまではなんともいえません。それまでは、しばらく屋敷の探検をしたり、中庭や菜園なんかを散策しましょう。どうやら、果樹園まで付いているらしいですよ。」

 ブルエの言葉にランウルグは目を輝かせた。

「本当?楽しみだなあ。…あ、着いたよ!」

 馬車がようやく、広い屋敷の前に止まる所だ。ゆっくりと減速していく。

「どう、どう。」

 御者が馬を止めて、馬をいたわって話しかけている。

 ブルエが背中をかがめたまま、座席から腰を上げた。彼はランウルグの護衛専門なので、どんな時も一緒だ。先に馬車を下り、油断なく周りを見回している。ランウルグも真似をして、建物や乗り物から出る時は必ず見回す事にしている。

 少しだけ先に着いていたモルサや他の使用人達が、忙しそうに物を運び入れたりしている。使用人達といっても、十人だけだ。後の五人は父のグイニスに付いている。

「ねえ、ブルエ、出ちゃだめ?」

 いつまでも許可が出ないので、ランウルグはとうとう尋ねた。

「今しばらくお待ちください。我慢がまん比べは嫌いですか。実は、私も子供の頃は嫌いでした。でも、舞を舞うのに大事だからと、ある日、父に犬と我慢比べをさせられたんです。

 飼い犬の、ベクと言いましたが、そのベクと食事の我慢比べです。その前にさんざん家の手伝いもして、舞の練習をみっちりとされ、剣の練習でしごかれた後の事でした。他の家族はみんな食べているのに、私とベクだけ食事を目の前にして待たされました。

 私は犬と一緒にされて怒りましたが、父の我慢しろの一言に仕方なく黙りました。ここからが大変でした。ベクも必死に我慢しています。ぺろぺろ舌なめずりをして、よだれを垂らしながら、もう、必死に我慢しています。

 私が先に食べたら犬にも劣るという事です。私も必死に意地で我慢しました。犬に負けるなんて、死んでも許せるものかとの一念で、必死に我慢です。

 そのうちに、物凄い空腹を感じてぐうぐう鳴っていた腹が鳴らなくなりました。どうやら人間の体というのは、しばらくの空腹なら忍耐できるようになっているようです。しかし、便所に行こうとして立ち上がった時、目が回って倒れてしまいました。

 それで、やっと我慢比べは終わりになりました。その時に学びました。犬と我慢比べをさせられるぐらいなら、忍耐するべきところは忍耐しようと。もう一回、我慢比べをさせられたら、たまりませんからね。」

 ランウルグはブルエにもそんな時代があったのかと思うと、おかしくなって笑った。

「その後、ちゃんとご飯をもらったの?」

「はい、もちろん。ベクも私もぱくぱく食べました。しかし、あまりの勢いで食べたので、その後、腹が痛くなりました。ベクは元気そうでしたけどね。」

「ふーん、良かったね、ちゃんとご飯をもらえて。私には無理だな。そんなにお腹が空いた事もないし、犬より先に食べちゃいそう。」

 ランウルグはどこか自信なさげに言った。ブルエみたいに武人としての誇りもないし、体力もないだろう。

(武術を習いたいな。父上がいいって、言ってくれたらいいのにな。そしたら、ブルエに習えるのに。)

 武術を習いたいという気持ちがランウルグには強くあった。物心着いた時には、刺客に狙われているのだから、無理もない。

 しかし、父のグイニスはその気持ちが強すぎる事を警戒していた。だが、ランウルグにはその事がまだ分からない。

 ブルエにももちろん、その点について言い渡されている。田舎に越してきたのは、利便性よりも、ランウルグが健全な人間関係を築けるように配慮しての事だ。このままでは、ランウルグは同年代の子供と遊ぶことが出来ない。それは良くないとブルエにしては強く主張した。グイニスも、もちろんそれは分かっていて、それが聞き入れられた形となった。

 ブルエもこの環境に満足している。ただ一つの気がかりがあった。いつも、なぜか居所がばれてしまう。移動には細心の注意を払い、見張っている者、後をつけている者がないか徹底的に調べているのに、なぜか、知られて急襲きゅうしゅうされる。

 ブルエは嫌な可能性に頭を悩ませていた。内通者の存在だ。グイニスは家柄の割には、使用人の数は多くない。豪商のほうがはるかに多い人数の使用人を雇っている。少ない人数の中で、皆で頑張ってきた。ブルエもほとんどの時間をランウルグの護衛に使うとは言え、時間のある時は薪割りや、菜園を作るために庭を耕すなど、男手が必要な部分に手を貸してきた。

 その中の誰かが、裏切っていると考えなくてはならないのは、いかに武人といえども嫌な仕事だ。

 それぞれの人となりを考え、知らずに情報を流してしまっている可能性も考えたが、それとなく尋ねてみても居場所が分かられるような事は決してしないと、誰もが言う。どんなに拷問されても決して言わない覚悟だ、と決意を新たにしている様子だ。

 ブルエはそれで、しばらく様子を見るとランウルグに言ったのだった。

 

 越してきてから二カ月がたった。今のところは何もない。問題はないように思われる。一番近い近所の家でも、二百五十ヒッキ(約五百メートル)はある。村はずれだが、人家もある。屋敷に至るまで三戸あった。一番近い近所の家には子供も住んでいる。素直そうで、ランウルグがいると分かれば、友達になってくれるだろう。

 ブルエは屋敷の見回りをした。朝、起きたら必ず行う日課だ。モルサとすれ違った。

「ああ、ブルエ、おはよう。今日も早いな。若様はまだ寝てるな。」

「おはようございます。若様はまだ寝てますよ。」

「そうだな。寝る子は育つという。しっかり寝て、大きくならないと。」

 モルサは言いながら歩き出した。彼の持っていた封筒が一通、床に落ちる。

「落ちましたよ。」

 ブルエは拾って手渡した。

「すまんな。」

 モルサは言って歩いて行った。その後ろ姿をブルエは見つめた。モルサとブルエは同じニピ族で、モルサは先輩である。モルサは事務関係の仕事を一手に引き受けている。当然、扱う書類も多かった。


 そろそろ、屋敷の周りに出てもいいと考えていた日のことだった。

 ブルエはランウルグと果樹園を散策していた。桃やすもも、桜、柑橘かんきつ類など様々な果樹の花が咲き、また、つぼみをつけている。暖かい春の日差しが心地よい。蜜蜂みつばちが忙しそうに飛び回っている。大きい蜂も小さい蜂もいる。可愛らしい大きさのちょうや美しい模様の蝶も風に乗って舞っていた。

 虫たちの羽音、花の蜜を吸いに飛び回る目白めじろの可愛らしいさえずり、うぐいすの通る鳴き声、ヒヨドリの賑やかな鳴き交わし、上空を旋回するとんびの声、からすの大きな羽音。どこかに雲雀ひばりもいるらしい。河川敷や休ませている田畑にいるのだろう。

 ブルエは足を止めて、素早く振り返った。

「誰だ…!」

 ランウルグは黙って、ブルエの様子を見守っている。逃げろと言われれば逃げるし、すぐに動けるように身構えた。

「あのう、おどろかせてわるかった。」

「わるかった。」

 木の陰から声がして、二人の子供が姿を見せた。

 はさみを持った八歳くらいの少年と、五、六歳の少女だ。妹らしい少女は手にかごを持っていた。

 ブルエは少し緊張をゆるめて、剣の柄にかけていた手を戻した。

「おれはそこの近所に住んでる、ドルセスだ。こっちは妹のオーシャだ。」

「オーシャだ。」

 一番近くの家に住んでいる子供達だ。

「ここで何をしている?」

 ブルエが尋ねるとドルセスは、少し緊張した様子で答えた。

「おれたち家族はここのかじゅえんと畑のめんどうを見てきた。それで、今日も父さんに言われて、つきすぎてる花のえだを切り落としに来たんだよ。」

 どうりで畑も果樹園も手入れが行き届いている訳である。しかし、ドルセスの身長では、明らかに枝の全ての手入れはできない。

 それは口実で、どんな人間が住んでいるか探らせに来たのだろう。おそらく、ランウルグの姿を目にしていて、子供が相手だったらそんなに気分も害しないはずだ、と二人の親が考えたのだろう。

 ランウルグがブルエを見上げた。同年代の子供がいるので、少し緊張しながらも、目をきらきらさせてブルエの反応を待っている。

 ブルエはうなずいた。おそらく、刺客はいないだろう。それに、ランウルグがここに越して来た理由の一つには、同年代の子供と遊ぶことなのだから、許さない理由がなかった。

「お前、名前なんて言うんだ?」

「なんていうんだ?」

 ドルセスがブルエを気にしつつ、ランウルグに尋ねた。街にいる時と違い、赤い日に透けるような朱色の髪を染めていなかったので、その髪をドルセスとオーシャは不思議そうに眺めている。

「わたしの名前はランウルグ。…いつもはラッダンって呼んで。」

 偽名を使うのを忘れ、本名を言ってしまってから、偽名を愛称にすることにしたランウルグだった。

「ラッダン?なんで、ランウルグってきれいな炎の名前があるのに、火の粉って名前で呼ぶんだ?」

「よぶんだ?」

 ドルセスが不思議そうに言い、オーシャが一番最後だけ、兄の真似まねをして尋ねる。

「それは、わたしのあいしょうなんだ。父上がそう呼ぶんだ。」

 それは全くの嘘ではなく事実だったので、そんなに緊張せずにランウルグは言えた。

「ふーん、そうか。それで、ここはお前の家か?もし、そうだったら後で父ちゃんが畑のことで話をしにここに来るからな。」

 のんびりとドルセスは言った。

「うん、そうだけど。でも。」

 ランウルグは口ごもった。グイニスはいつ帰ってくるか分からないのだ。

「旦那様はいつお戻りになるか分からない。代わりに他の人が聞きに行く。それで、いいか?」

 ブルエが助け船を出した。

「うん。それでいいよ。父ちゃんに言っとく。それじゃ、じゃましたな。」

 ドルセスは頷き、オーシャを連れて歩き出したので、ランウルグは慌てて引き留めた。

「まって!」

 ドルセスとオーシャがおどろいて振り返る。

「あの、いっしょにあそばない?」

 ランウルグはどきどきしながら、勇気を出して言ってみた。

 ドルセスは目をくりくりさせながら、ブルエを見上げて反応を見ながら頷いた。

「そっちがいいなら、いいよ。」

 ドルセスはブルエがランウルグの保護者だと分かっている。

「いいよね、ブルエ?」

「少し、お待ちください。」

 ブルエは少し離れた所に待機している使用人の一人に、手でモルサに伝えるよう合図した。使用人が素早く去っていく。

 ブルエは小声でランウルグに注意した。

「いいですか、若様。私は少し離れて護衛します。何か危険を感じたら、すぐに声を出すのですよ。あの子達を守るためにもいいですね。」

「うん、分かってる。」

 ランウルグは頷いた。ブルエはドルセスとオーシャに向き直った。

「二人とも、できるだけこの近くで遊んでもらっていいか。」

「うん、分かった。ラッダン、お前にもえだのせんていの仕方をおしえるか。」

 ドルセスは賢く、機転がきくようである。ブルエは少しほっとした。

「うん、おしえて。」

「オーシャ、お花つみたい。」

「せんていをしてからな。もう少しやらないと、父ちゃんにおこられるから。」

「どうやるの?」

 ランウルグは同年代の子供といるだけで嬉しかった。それが、果樹園の仕事でもなんでも良かった。とにかく、友達ができたことが、嬉しくて仕方なかった。

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