第4話 いじめっ子達
変な男の出没事件から、半月がたった。
今日もランバダはいじめられている。どう、言い返せばいいのか、分からないのだ。どうしたらいいのか、全く見当もつかない。大体、なんでそんな意地悪な事を言われなければいけないのかも分からないのだ。
周りの大人達の噂話やいじめっ子達の言う事から、自分が父のソリヤと血の
母のセリナが他の男と不貞をしたからとか、暴漢に
でも、父のソリヤは優しいし、姉や妹弟とも全く同じように接してくれる。時々は叱られもするが、それは姉と変わらなかった。
「弱虫、弱虫。悔しかったら
今日もいじめっ子達が変な作り歌を歌いながら、ランバダを取り囲んだ。
ランバダは緊張した。今日はいつもと違う。
祖母のお使いで三歳の妹のリーヤを連れて、八番通りまで行ってきた帰り道だった。リーヤがいなければまだいいが、今日はいるのだ。
しかも、今日のいじめっ子達の手には馬糞が握られている。前にも投げつけられた事はある。しかも、いじめっ子達の中に今日はグースがいない。グースの母ルンナは、グースを殴っていいと言うが、実は彼がいる時はいじめがましなのだ。変な歌を歌うだけだ。限度を知っている。
グースがいない時、六番通りのエイグが大将の時がやっかいだった。彼は意地悪で自分ではなく、他の子供達にいろいろとけしかける。
今日も彼だけは少し離れた所で様子を眺めていて、馬糞も握っていない。彼は汚い事が嫌いなのだ。そして、いじめが陰湿だった。
ランバダはできるだけ早く家に帰ろうと、リーヤの手をしっかりと握り、歩調を速めた。でも、リーヤはまだ三歳だ。
「おにちゃん、まって。」
上手く回らない舌で訴えた。ランバダはリーヤを抱き上げようとかがんだ。
(!)
頭に何かが当たった。確かめなくても分かる。馬糞だ。ランバダはリーヤをかばいながら、叫んだ。
「やめて!やめて!」
必死だった。リーヤに当たったらどうしよう。リーヤに怪我をさせてしまったら。自分の事よりもリーヤの事が心配だった。必死にリーヤをかばいながら、少しずつ前に進んだ。
その時だった。足に痛みを感じ、ランバダは転んだ。誰かが足を払った。リーヤを倒さないよう、体を
「あ!」
思わずランバダは叫んだ。リーヤの顔面に馬糞が命中した。小さなリーヤは勢いで後ろにひっくり返り、火が付いたように泣き出した。
「リーヤ!」
ランバダは急いで起き上ると、リーヤを助け起こした。いじめっ子達も三歳のリーヤに当たってしまったので、
「やめて!やめて!」
ランバダは叫びながら、リーヤの顔を手で
「おい、何やってる!お前ら、何やってんだ!」
少年の怒声が
「エイグ、お前、汚いぞ。馬糞はやりすぎだろ!」
「いいじゃないか。どうせ、いじめるんだったら、面白い方がいいだろ。必死になってて見ものだった。
おい、お前らもどうする?私についてくるか。それとも、グースの奴に今までみたいについてるか、どっちにするか決めろよ。」
エイグが言って、他の子供達に手まねきをした。
「私についてきたら、上手いものは食わしてやるし、グースみたいに仲間を殴ったりはしない。」
「おい、エイグ、お前、何、言ってる。勝手にしろ!」
グースは言って、後ろを向いた。迷っていた子供の一人が馬糞を投げ、グースの左肩に当たった。グースは振り返ると、怒りに満ちた目で他の子供達を眺めまわした。
「おい!殴られたいのか!」
拳を振り上げてみせる。グースは力もあるし、
「ほら、グースの奴はすぐに暴力をふるう。あんな奴に付いて行くのか。」
エイグがにやにやしながら、馬鹿にした調子で言った。
グースは腹が立ったが、エイグに構っている場合ではないので、無視してランバダとリーヤの側にしゃがんだ。ランバダは自分も泣きべそをかきながら、それでも一生懸命、妹の顔を自分の服で拭っているが、余計に馬糞をのばしているだけだ。
「顔を洗わせよう。その方がいい。」
グースの提案にランバダは両目に涙をため、唇をかみしめ、鼻水をたらしながら、
グースはわんわん泣いているリーヤを抱き上げた。グースにも弟達がいる。小さい子の扱いには慣れていた。
「お前んち、ばあちゃんはいるのか?」
「…うん。」
「そっか。ほら、早く立て。」
グースは座り込んでいるランバダを立たせて、歩き出した。
「おい、逃げるのか。」
エイグが言い、誰かがグースに馬糞を投げつけた。今度は頭に当たった。とうとう、グースはブチ切れた。泣いているリーヤをランバダに渡すと、エイグに向かって突進した。グースのあまりの勢いに他の子達は思わずよけた。
エイグは逃げようとしたがわずかにグースの方が早かった。
エイグの左
殴った右手がじんじんしたが、もっと殴ってやりたかった。それほど、怒りが収まらなかった。
「グース!」
今までに聞いたことがないほどのランバダの大声に、グースだけでなくその場にいた全員が振り返った。ランバダがやっぱり泣きべそをかきながら、言った。
「グース、もう、いいよ。一発で十分だよ。」
泣き続けているリーヤを抱っこしたままの、ランバダの馬糞だらけの姿を見て、グースの怒りは不思議と溶け去った。エイグなんかに構うより、早く二人をなんとかしてやりたかった。自分もさんざんランバダをからかってきたが、エイグほど人を
グースは頷いた。
「そうだな。早く行こう。リーヤの目がつぶれたりしたら、大変だ。」
グースはリーヤを抱きかかえると、小走りでランバダの家に向かった。ランバダも後を付いて行く。
「覚えてろ、グース!私を殴った事を後悔させてやる!私がレグム家の跡取りだってことを忘れるな!」
レグム家は最近、勢いに乗ってきた紙を専門に扱う商家で、花の卸売にも参入して六番通りの家々を買占め、長屋を大々的に改築して屋敷にしてしまった。その跡取りだというので、エイグは威張っている。
エイグの負け惜しみを聞きながら、ランバダはグースとその場を立ち去った。
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