Log-127【祈りをくべて輝く炎】
「……これが、飽和魔石の、核……」
ウルリカの眼前に
「これは、一体、何……? 飽和魔石って、咒術って、幻理って、一体何なの……?」
疑問は尽きず、溢れんばかり。だが、その答えに辿り着くには、今は余りにも時間が足りない。そして最早、ウルリカの精神も限界を迎えていた。これ以上の長居は、精神の崩壊をもたらしかねない。今はただ、目的を果たさなければ。
ウルリカは手を伸ばして、眩く光る結晶にそっと触れる――突如、数え切れないほどの思念が、脳裏を貫く。それは群発頭痛の如く、それは眼を抉り取られるが如く、まるで万力が頭蓋を貫くが如く。発狂するほどの激痛が、彼女を襲った。
「うっ……! ぐっ……! いっ……! ――っあああああああああああ!!!」
――ふと気が付くと、辺り一面は闇に包まれていた。先ほどまでのような、目が焼き切れるような真紅も、思考を掻き乱すようなノイズも、肺が焼きつくような瘴気もない。一切の光なき、
「……これ、は……」
ウルリカはその火に触れようとする、だがその手は、
「……そっか、あたし辿り着けたんだ……」
得心するウルリカ。その言葉通り、彼女は魔層の
「……悪いわね、祈りをくべて輝く炎。
ウルリカは人差し指の先を噛んで、血を出した。眼前の結晶に擦り付け、自らの血で呪文を
「結果は神のみぞ知る……さあ、ちょっとくらい反応見せなさいよね、魔物の王様」
*
瞼を開く、大きく息をする。ウルリカは状況を把握する、身体はアクセルの背中に負ぶさっている。意識は潜行していた仮想空間から、現実空間へと浮かび上がっていた。記憶を遡る、
「……ウルリカ……気がついた、ようだね……?」
「ええ、なんとかね。だけど、目標はすでに手中にあるわ。死にたくなるほど刺激的な旅路だったけど、手応えは十分よ」
そう、ウルリカには手応えがあった。アクセルの異能を通して伝わってくる、
「あたしが浸透させて、アンタが侵食したこの針糸は、謂わば導火線よ。あたしが魔石に命懸けで刻み込んだ呪文に火を点けるの。さあ、最後まで気張るのよアクセル」
「……
周囲の音は遠くなり、焦点は合わず、意識は
いち駐屯兵でしかない彼には、肉体活性や増強の魔術も使えなければ、彼女ほどの剛力や戦闘センスを持ち合わせているわけでもない。全ては野良で培われた荒削りの技術と、野生的経験で補っているに過ぎない。
そもそも――今や失われてしまった――仲間との一糸乱れぬ連携こそが、彼ら駐屯兵団の持ち味だった。それにも関わらず、ジェラルドは単独で女傑アレクシアに並び立とうというのだ。努力を怠らなかった凡人が、憧れていた稀代の天才と肩を並べた瞬間だった――そこに至るまでの経緯が、たとえ痛ましいものだったとしても、胸の詰まるものだったとしても、アクセルにとって彼が偉大であることに、変わりはない。
「ウルリカ、頼む……
「欠伸が出るくらい当然よ。滅ぼさなきゃ滅ぼされるだけ、当然の帰結ね。これで――終わらせるわ」
アクセルの背中越しに、ウルリカは手に持った儀仗剣から、彼の漆黒の手に向かって、あらん限りの魔力を注ぐ。すると、剣の柄を握る彼の手が小刻みに震える、それは痛いほどの熱量を生じた。彼の手を通じて、同じ漆黒に染まる剣を伝い、
「……さあ、起きなさい、我が魔術よ。単純明快、ゆえに破壊の申し子、
今や大狼の中に眠る魔石は、風波なき魔力を満たした槽、静かなる拍動を刻む――一転、ウルリカの血で
「――
ウルリカが叫ぶ、言葉を返す間も無く首根っこを
「『
宙空で体勢を整えたウルリカ、身を屈めて足元に儀仗剣を置き、魔術を執行する。鞘尻から勢いよく噴流が放たれ、
「あたしに
まるで母が子を
「アレクシア! 全軍退げて! 奴から爆発が起きるわ!」
「全軍後退ッ! すぐに退けぇッ!」
アレクシアの号令が掛かる、連盟部隊はそれを念頭に置いていたか、素早い転進からの滞りない後退を見せる。しかし、それを命じた本人を除いてだが。
「アレクシア! 危険だ、君も退がれ!」
「馬鹿野郎ッ!! ならコイツは誰が留めておくんだ!? 俺しかいねえだろうがッ!!」
ジェラルドが退避を勧告する、だがアレクシアは最後まで挺身して、時間を稼ぐつもりだった。もしも自分が相手をしなければ、きっと
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