Log-126【狂気と剛毅のせめぎ合い】
「ハァ……ッ! ハァ……ッ! イングリッド! 回復追いついてねえぞッ!!」
「無理を言わないでくださる! こちらも全力で魔力を回してますわ!」
たった一人で
だが、大狼はやはり、あらゆる攻撃に対し免疫をつけてきていた。最早その程度の低位な魔術では、動きを制限することさえできない。
「……なら、これはいかがかしら!? 姉様、後退を!!」
イングリッドの言葉に対応して、一足飛びに
「クッ……! ハァ……ッ! ハァ……ッ! ハァ……ッ!」
地面に大剣を突き刺して、身体を預けるアレクシア。肩で大きく息をする度に、魔術で増幅させた筋肉が
「グッ……! 私達と、エレイン達の、魔術! 持って、数分! 姉様、その間に!」
「ああ……ッ! 十分だ……! 助かるぜ、イングリッド……!」
僅かな時間稼ぎ。しかし、その寸暇こそが誰にとっても喉から手が出るほど欲しかった時間。
「お姉ちゃん、準備できてるよ! 号令お願い!」
「ええ、承知したわ……ッ! カウント後、即座に放って……ッ!」
エレインが
一つ一つをより長く、持続させることが肝要。だが、
「駄目、持ちそうにないわ……! これほどまでに……何て魔物なの……!」
窮屈な牢獄の只中にあって、狂気に駆られたように暴れ回る
「エレイン、ごめんなさい……! 早くも頼らせて貰うわ……!」
「大丈夫だよ! 任せてお姉ちゃん!」
「ありがとう、頼むわ……! 五……四……三……二……一……」
術者ゆえに感覚で理解できる、己が魔術の崩壊する音。揺らぎ、ひび割れ、朽ち果てる様。
「……〇」
破砕音を轟かせ、宙空に瞬く細氷を撒き散らしながら、解き放たれる
「『創造の始まりは光であった。原初は闇の淵にあった。それは混沌、創造の余地無き
エレインら特鋭隊による斉唱が
「馬鹿の一つ覚えのようで我ながら呆れてしまうけれど……姉様の言う通り、今は形振り構っていられないのよ……!」
眩惑戦術は恐らく、二度通じない。
荒かった息は、今や整った。魔術による肉体の酷使で、節々には激痛が走る。だが、動けないほどじゃない。後方から放たれる、仄かに暖かな感触をした回復魔術を享受する。そのお陰か、身体が軽い。疲労は抜けないが、十分に動ける、それだけの体力は戻った――その時、
「――アレクシア、俺も戦うよ。貴女の隣で」
突如として、隣から男の野太い声が聞こえてきた。そこに現れたのは、
「ジェラルド、お前……」
今は壊滅せし駐屯兵団、その団長ジェラルドだった。治療受けて消沈していた先ほどとは見違える、決死の表情を湛えて、アレクシアの隣に立つ。その顔は紛う事なき、戦士の風体。彼女の勇壮なる姿に当てられて漲る闘志に、仲間を失った哀惜の心から生まれる
「すまなかった、アレクシア。俺は、どうかしていた。どこかで、人の死など忘れていたようだ。ここは戦場だ、
「ジェラルド……。分かった、最前線で共に戦おうぜ。だからっつって、死ぬんじゃねえぞ?」
「ああ、
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