Log-128【天と地の狭間で】
依然として
恐らくは、頂点捕食者としての
「ヘッ、どんな表情を見せてくれるのか、見ものだな。この特等席で見届けてやるぜ、
腹部の膨張は最高潮に達する、最早爆発まで
「エレイン、お前っ!」
その正体は、アレクシアを引っ捕まえて超音速で移動するエレインだった。
「この馬鹿! 自分だけ格好つけて! 犠牲ばっかりがお姉ちゃんの仕事じゃないでしょ!」
「お、お前……!」
あまりにも簡単に命を捨てようとする姉を、姉にしかできないことがまだ沢山あると叱る妹。それは、叱られた本人さえも頷いてしまうほど、至極真っ当な指摘だった。そもそもアレクシアは連盟部隊の総司令官だ。総統であるウルリカが作戦を練ったとしても、それを実行に移し、成功に導くのは総司令官の役割に他ならない。彼女の存在無くして、部隊の統制は実現できない。
「す、すまん、エレイン。頭に血が上ってた」
「全く、それだけじゃないでしょ……待っててくれてる人がいるんでしょ?」
「ばっ……! おまっ、それどこで――」
アレクシアの視線の先で、大気を揺さぶる重く鈍い
「……終わった、の?」
「ああ……ようやく、終わったようだ……」
その一部始終を上空から見下ろしていたウルリカとアクセル。二人は確実に、
「ようやく、ようやくなのね……多くの犠牲を払ったわ……」
「これで、弔いになるのかな。無念は、晴らせたのかな……」
「死人に口なしよ。あたし達が出来ることなんて、精々が自己満足なのよ、失われた命にやってあげられることなんてね」
「それは、そうだけど……」
「でもね、人は二度死ぬって言われてるわ。一度目は肉体の死、そして二度目は記憶の死。死後、その人を覚えている者がいなくなった瞬間に、その人が存在していた
そうアクセルに語った直後、ハッとして口を塞いだ。自分はなんてことを言ったのか、と。残酷な事実をひた隠しながら、なぜ叶わぬ勧告など宣ったのか、と。顔を伏せてしまったウルリカに、彼女の心境を察してしまうアクセル。具体的な何かを知っているわけではない。しかし、これだけ長く彼女と一緒にいれば、どれだけ鈍くても思考は追いついてくるものだ。だから、彼女の言わんとするところは、察しがつく。原因は不明だ、いつどこでかも分からない。だけど恐らく、自分は長くない。
アクセルはそれを理解してしまった、悔しさで打ち拉がれそうになる。だが彼は、こうも思った。願わくは、己の死が、ウルリカの目的達成と引き換えであればいいな、と。彼女の目的に関わる死であれば悔いはない、と。彼女の目的が、己の目的なのだから。
空を飛翔するしばらくの間、二人は沈黙したままだった。気まずい雰囲気、しかしその間は、二人だけでいられる唯一の時間。そこには不思議と、酸いも甘いも同居していた。二人手を繋ぎながら、果てしない天空を翔ける、この世に二つと無い
ただそうしているだけで、二人が共にあるだけで、それだけで丁度いい。
このまま、天と地の狭間で旅が出来ればいいのに。何かに縛られず、誰かに指図されず、ただ気ままに世界を眺めながら。
このまま、黙っていたっていい。ただ二人だけで、同じ景色を見て、同じ空気を吸って、少しの触れ合いと、少しの温もりと。
黙する二人は、様々な想いが巡っていただろうか。貴女はこの時間を、惜しいと想っているだろうか? 貴方は明日ではなく、今日のこの瞬間が続けばいいと想ってる? 隣にいるのが、あなたで良かった。誰かではなく、あなたが良かった。だからあなたと、共に在りたい。
――長くは続かない。知っていた。我が道は、茨の道だ。困難の後に待つのは、困難だけだ。
「――リカ、ウルリカ、聞こえるか。応答しろ」
「……アレクシア。どうしたの?」
「今、空を飛んでいるのか?」
「ええ、そうだけど……なに?」
「……下を見ろ。奴が――動き出した」
目を見開く。そんな馬鹿な、有り得ない。奴は死んだはずだ。奴を怪物たらしめていた原因を取り除いた。ならもう、奴は神話生物としての
儀仗剣を傾けて旋回し、眼下を望む、大地に横たわる
「……嘘でしょ? 何が、起きているの?」
「ウルリカ、すぐにアレクシア様達と合流しよう。今はまだ小康状態、体制を整え直す時間はある」
「…………」
「ウルリカ! 考えている時間が惜しい! 僕達ならまだやれる! だからさあ、行こう!」
「……え、ええ。そうね、分かったわ。一度体制を整えるわよ」
アクセルの気持ちは理解している。今は思考に
では、なぜ蘇る? 大狼を怪物に仕立て上げた
何かが、差し迫っているのではないか。何かが、見えないどこかで動いてるのではないか。演繹や帰納的な論理立てた考え方が通用しない、もっと上位の次元にある意思や仕組みが働いているのではないか。未だ勇者に秘められた真実を、ウルリカは知らない。だが恐らくはそこに、
機首を下げ、アレクシア達連盟部隊が集まる場所に向かって、儀仗剣を走らせる。腰部に手を当てると、ベルトに吊した鍵が震えている。何に反応している? 分からない。だが、今はとにかく部隊の体制を整えなければいけない。
ウルリカの胸の内に、得体の知れない、不気味な不安が
その答えを知るのは、そう遠くない未来。
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