Log-004【災厄の訪れ-壱】
ウルリカたちが第二国境駐屯地へと訪れた、その日。まだ暗がりの残る、
耳を
アクセルは思考を巡らす、魔物にも夜行性と昼行性がいる。そして現在、外は暗い、まだ真夜中だ。つまりは夜行性の魔物、中でも夜行性というのは限られてくる。
「
現場に駆けつける中、兵士たちが口々に交わす
習性が臆病なため、頻繁に現れることはない。だが、アクセルは二年前に一度、
人前に踊り出るような種は猛烈に獰猛で、その例に漏れず、アクセルが交戦した
アクセルが広場に急行する。先んじて到着し、指揮するジェラルドに駆け寄った。
「団長! 現在の状況は!?」
「まだ関門を越えてはおらん。しかし櫓の者は既に姿を確認している。向こうもこちらを慎重に窺っているようだ」
アクセルは首肯して、静かに抜刀、臨戦態勢に入る。
奇妙な静寂が周囲を支配する。
「――ウルリカ様……。そうだ、ウルリカ様は……!?」
周囲を見渡しても、ウルリカの姿が見えなかった。どれほど寝入っていたところで、櫓の警鐘に気付かないはずがない。ならば、何事かと確認しに来るのが道理。
「おい、アクセル! 集中し――」
ジェラルドが注意を促した、その時だった。アクセルが関門から少し目を離した瞬間――宙空には、月を覆い隠した
鬨の声が轟くような、けたたましい開戦ではない。だからこそ漂う異様な雰囲気に、誰もが戦慄を覚える。そして何より、兵士達の視界を支配するソレは、目測で十五メートルはあろうか。二年前に対峙した相手より一回りも大きく、威圧的だった。
ほんの一瞬の
人の目で捉え反応できる限界の素早さで、一気に距離を詰めてくる。勢いそのままに、前足を大きく伸ばし、鋸刃状の爪で横に薙ぐ。アクセルは回避の瞬間を見計らい、地を蹴って後方に飛び、間一髪、爪を避けた。地を蹴った反動を使って宙空で旋回し、避けると同時に剣を薙ぎ払う。しかし、剣の切っ先は、魔物の伸ばした足を捉えきれず、体毛を掠めるに留まった。
櫓から
冷静さを失った
石造りの床が砕けるほど背中を強く打ち付け、一時、呼吸困難に陥ってしまう。遠のく意識を保つのが精一杯で、立ち上がることすらままならない。しかし、傷を負って激昂する魔物が、その隙を許すわけがなかった。
「アクセル!! 逃げろ!!」
ジェラルドの言葉も虚しく、アクセルの足腰には力が入らない。ただ戦慄と拍動を感じながら、霞む視界の中で、
詩を口ずさむような、少女の声が。
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