第5話 バイトの子、現場に出る

 完全に陽が落ちて真っ暗になった帰り道。さくらは一人で夜道を歩いていた。そこかしこにぽつりぽつりと街灯やネオンや電光の宣伝板が煌き、夜の街の様相を呈している。

 さくらは足早に帰路についていた。まさか自分がいきなり狼男に襲われたりはしないだろうと思いはしても、見慣れた夜道の闇の帳にいくばくかの恐怖を感じるのを禁じえなかった。

 ある程度の人ごみが比較的安心な徒歩による移動を可能としているが、どこの道も人通りが多いわけではない。さくらはある程度人の多い道を選んで歩いていた。

 仕事帰りのOLやサラリーマンがそれぞれの帰る場所へ向かって歩いていく。誰もが他者を気に留めはしていない。

 通り魔は人通りの少ない場所を狙って現れる。そのような情報は出ていなくとも、なんとなくそうであると考える。少なくとも、犯人がわざわざ人通りの多い場所でリスクを度外視して凶行に及ぶとは考えにくい。

 誰しもが人の中にいる間はおのずと周囲への警戒は疎かになっていた。街中は通り魔事件が多発している最中とは思えない平穏さだった。皆、まさか自分が被害者になるとは考えてもいやしない。どこかの誰かが不幸にして通り魔の犠牲者となる、もしくはなったとしか考えてはいないのだ。

 だが、さくらは事件解決の依頼を受けた仕事先に居た身。半分他人事ではなくなっている。それも所長である朧木良介の意見をも聞かず、自ら事件解決の為に飛び出して来たのだ。どうしても通り魔を意識して、通り過ぎる人々に警戒してしまう。

 その時、さくらは閃いた。人通りのない場所を敢えて歩けば、通り魔をおびき出せるのではないかと。それには荒事に向いた協力者が必要だ。

 さくらは朧木良介の実力をあまり知らなかった。常日頃から事務所で暇をもてあそぶ姿しか知らないのだ。よって、いざと言う時に頼りになるとは考えてもいなかった。

 猫まんは猫だ。狼は犬科だ。種族の壁に寄らずとも、人語を解する猫と人型の狼では喧嘩にもならないだろう。猫まんに頼るのも論外だ。

 魔紗。常日頃から帯剣し、マスケット銃まで持ち歩いている。聞けば荒事専門家だという。・・・消去法で頼れそうなのは魔紗となる。今日話をした限りでは、全く話の通じない相手でもなさそうだ。

 いわゆる無辜の民。一般人の平穏な生活を守る為の名目で、協力体制を望む事ぐらいはしてくれそうだった。少なくとも、こちらから囮になると申し出れば話ぐらいは聞いてくれそうだ。

 朧木探偵事務所の政治的スタンスの問題はあるが、自分が魔紗の側に協力しておけば、いざ教会側が事件を解決しても、自分の協力のおかげでもある、と探偵事務所サイドの協力もあっての話にも持ち込めそうだ、とさくらは考えていた。少なくとも朧木良介自身の問題ではなく、自分の所属する探偵事務所の問題である、と彼女は自分自身の行動の動機付けの為にそう解釈していた。

 実際、朧木良介の進退問題は朧木探偵事務所の存続にも関わるので無関係ではなかったが、自分自身が事件に深入りする理由付けが必要だった為、自分事の話にする為に、政治的問題は事務所で抱えている問題とさくらは判断している。

 自分自身の楽して楽しいバイト生活。さくらは朧木探偵事務所を辞めるつもりはなかったし、命の危険にこそ関わる可能性もあるが、このような事件に首を突っ込んでみたくもあったからバイトに志願したのだ。

 関わらない手はない。

 なにより事件が許せない。さくらは『自分自身が過去に超常の存在によって命の危険に瀕した事がある』ので、とにかくこのような事件が許せなかった。

 彼女が遭遇した出来事は未解決のうちに収束したが、さくらの心にトラウマを残すのには十分だった。最近でこそ猫まんなどのように無害な存在もいることを学んだが、心のそこでは妖怪、化け物、怪異の類に心を許してはいない。

 そんな彼女である。化け物退治が専門の魔紗にお近づきになりたいという願望がないわけでもなかった。

 これだけの理由と動機と目的があれば、さくらを突き動かすには十分過ぎたのだった。


 翌日。さくらはバイトが無かった為、その日は朧木探偵事務所ではなく先日訪れた教会を目指していた。

 相変わらず人気はない。受付に老婆が一人いるだけだった。いや、階上のフロアから魔紗が見ていた。


「おや? また来たわけ?」


 今度は魔紗が先に声をかけてきた。ちょうど出かけようとしていたところだったようだ。


「はい。今日はお願いがあって来ました」


 さくらはぺこりとお辞儀をした。


「改まって今日は何の用? できれば手短にお願いしたいのだけれど」


 魔紗は出掛け直前とはいえ、さくらの話を聞く気のようだ。


「実は、通り魔の犯人探しのお手伝いが出来ないかと思いまして、お願いに来ました」


 魔紗はさくらの話に驚いている。その理由は2点。まず一つ目。先日に朧木良介の抱えている問題を話したにもかかわらず、今日このようにしてお手伝いしようと申し出ている事。二つ目。化け物退治に積極的に関わりたがっている事。


「あなた、危険を承知で言っているわけ? 犯人が人間ではないという情報は既にあったはず」

「承知の上です。そんな危険な相手を野放しにしている方がもっと危険だと考えました。なら、可能な限り専門家に協力して、一刻でも早く事件の解決に繋がってくれた方がましです」


 魔紗は少しだけ邪推した。朧木良介の立場もある。協力を申し出ながら足を引っ張りに来た可能性。あるいは事件に関わる情報を引き出そうとしている可能性を考えた。

 実際、さくらには事件に関わる情報を引き出そうという動機や目的はなかったが、結果としてそうなる事は明白だった。


「なら、おとなしく帰ることね。探すには情報が少なすぎて決め手にかける。今は少しでも怪しい者が居ないか歩いて探して回るくらいしか出来ないのだから」


 さくらは頷いた。


「そうです。目撃情報もないんです。だから、私が囮になって夜道を歩き回ります」


 魔紗は意外そうな表情をした。ただでさえ危険な相手。狼男を相手に囮捜査の囮役をやるというのだから。


「さすがに理解しかねるわ。それであなたになんのメリットがあるわけ?」

「事件解決に繋がります」


 魔紗の言葉にさくらは速答した。その答えには偽りはない。


「・・・・・・あなた、きちんと考えて行動するタイプ?」


 魔紗の疑問。その答えはNOだった。が、


「考えた上での判断です!」


 さくらの答えは違っていた。


「うーん。私が狼男を探して回っても警戒されるだけだから、どうやって効率よく探したものかと思っていたけれど、協力者が出来るなら大分やれる事は広がるわね」

「朧木さんは『時が来るまで待つ』といって動かないみたいだし、それなら魔紗さんに協力した方が、事件解決も早いかもって考えたんです」


 さくらの台詞に魔紗がピクリと反応した。


「ん、朧木は待つ、とそう言っていたの?」

「えっ? そうですが。それがなにか?」


 さくらは魔紗が何を気にかけていたか、全くわからなかった。


「そう。朧木には何かあてがあるようね」

「そうなんですか?」

「・・・あなたが知らないなら、やはりただ単に日和見を決め込んだだけかしら?」

「話の途中で事務所を飛び出したきりでして、詳しい話は知らないです」

「・・・あなた、放って置く方が危なそうね。いいわ。囮捜査の話に乗ってあげる。朧木に何か策があるなら、こちらも無策なままではいられないから」


 意外や意外。魔紗はさくらの話に乗って来たのだった。これには魔紗の思惑もある。つまり、朧木良介の動向を知る手段としてさくらの位置づけを捉えたのだ。打算も込みだが協力者も欲しかったのもある。

 魔紗はさくらの背後の方を向いた。


「そんなわけだから、後ろの猫ちゃんも手伝ってくれるかしら?」


 魔紗が当て込んだ戦力。それはさくらのお目付け役。猫まんだった。

 物陰からのそりと猫が姿を現した。


「やれやれ、気付かれていたのか。なら、ただの猫の振りはやめだ」


 猫まんだった。さくらが驚く。


「化か猫! いつの間に?」

「あぁ、あぶなかしい子がどこにすっ飛んでいくのか気が気でなくて、後をつけていたのさ。予想を斜め上に突っ切って、まさか教会のお嬢さんに協力を申し出るとは思わなかった」

「化け猫ね。朧木良介がただの猫を飼っているとは思わなかったから、あの日あなた達の事務所を訪れた時は静かに様子を見ていたのだけれど、ずっと飼い猫の振りをしていたでしょう」


 魔紗はびしっと猫まんを指差した。


「あの時にはもうばれていたのか。外見はただの猫だからわからないかと思ったんだがねぇ」


 猫まんは二本足ですっと直立した。


「動物の妖怪には動物の妖怪。人間の知覚だけでは追い切れない可能性が強いから、日本の動物妖怪の手でも借りたいところね」


 猫まんは目を細めた。


「・・・ほう、それは猫の手も借りたい、と言う事ですか。くっくっくっ!」


 猫まんは愉快そうに喉を鳴らした。満更でもなさそうだった。

 さくらは猫まんに突っ込みを入れたくてうずうずしている。


「化か猫・・・それって・・・」


 さくらが何かを言いかけている。


「狼は人間以上に気配や匂いに敏感。教会関係者の私じゃあ直ぐに気付かれて逃げられている可能性もある」

「猫は犬ほどには捜索能力とかはないですけどねぇ」


 魔紗の言葉に猫まんが返事を返す。と、そこでさくらが猫まんを指差す。


「借りたい猫の手って、それはなんの役に立つかもわからないような手でも欲しいって意味でしょうが!」


 猫まんが前足でぽんと手を打った。


「なるほど。少なくとも何かしらは役に立ちますとも。相手が相手だけにわたくしのような猫もどきの手でも欲しいと」

「ないよりはあったほうが良い。現状では手がかりもつかめていなくてね。化け猫の力も借りられるなら、この子の協力の申し出は受けても良い」


 魔紗は条件を付け足す形で協力を受け入れる構えのようだ。さくらはそこまで考えてもいなかったが、猫まんにとっては意外な答えだった。

 猫まんは朧木良介を信じている。何かしらの準備をしている事をほぼ確信していたが、自分達にできる事があるなら何かしらは行いたい。猫まんは朧木良介にさくらを見ているように頼まれたが、放って置いても危険なところに突っ込みかねなそうだ。なら、化け物退治の専門家の力を借りられておく方が安全そうだと考えた。


「わたくしなら構わないが。さて、この子がなんていうやら」

猫まんがさくらの顔を見上げる。

「猫まんが同意するって。なら私も当初の予定通りに囮捜査の囮役をやるよ」


 魔紗は頷いた。


「話は決まったようね。ならば早速今夜から見回りしましょう。名目は町内会の夜間見回りという事で」


 かくして、ここに二人プラス一匹の協力体制が出来上がった。連携力があるかどうかはまだわからない。



 夜。麻布霞町は夜の帳に包まれた。霞町は雑居ビルや飲食店が多い街である。大通りは人が多い。しかし、そんな人通りの多い道を敢えて避ける者がいた。

 さくらである。彼女は人気のない通り道を選んで歩いていた。


「うわぁ、自分で言ったは良いけれど、心細いなぁ・・・」


 自ら囮役を買って出た彼女は、いざやってみると軽く後悔していた。さくらは後ろを振り返る。通り魔を警戒してではなく、魔紗が後をつけてくれているはずと思って振り返ったのだ。実際、さくらのやや後方を魔紗が尾行していた。魔紗は周囲の者達に警戒をしている。そして、気配を隠してもう一匹の猫まんもさくらのあとを追っているはずだった。

 猫まんは傍目にはただの猫にしか見えないので、野良猫のように振舞ってもらって街中に紛れ込んでもらう形となった。

 さくらは後ろを振り返ったが、誰の姿も見つけることは出来なかった。魔紗も尾行は慣れていたもののようで、気配は完璧に消していた。


「ほんとにちゃんと来ているんでしょうね・・・」


 さくらは猫まんのことを思い浮かべながら、そんな事を独り言として呟いた。

 さくらは夜空を見上げる。星など見えない。満月にほぼ近い月が見えているくらいだった。夜も21時を回った頃であっただろうか。

 さくらは気を取り直して歩き始めた。

 と、一人の歩行者が前方に現れる。フード付きパーカーを被り、素顔はあまりよく見えない。さくらは通行人の類かと思って軽く道を横にどけた。

 と、前方から歩いてきた通行人も、さくらの側に歩いた。

 さくらは内心どきりとした。通行人を避けようかと思ったが、そうこうしているうちにさくらの目の前にフード付きパーカーの男が立った。

 さくらは内心、目の前の男が通り魔なんじゃないかと身構えた。


「ねぇねぇ、こんな時間にこんな場所を歩いて暇なの? 良かったら俺と遊ばない?」


 ただのナンパだった。

 さくらは心の中で脱力した。こんな時間にこんな場所でナンパなんてするやつが居るんだと思った。咄嗟に言葉が出てこなかったのは、男が通り魔なんじゃないかと身構えていたからだ。


「すみません、急いでいますので」


 さくらはそういって、いつものようにナンパをかわすようにして先を急ごうとした。さくらはたまにナンパされる事はあった。見た目には美少女だったので、性格まで知らない男ならば引っ掛けるくらいはできるだろう。もっとも、さくらの性格を知る者ならば、ナンパなんぞしようとも思わないかもしれない。


「まぁまぁ、そんなかたい事言うなって!」


 男はさくらが避けようとした先に立ちふさがる。さくらは内心辟易した。日中のナンパでもこんなしつこくはない。時間帯からいってもヤリ目なのは明白だった。


「ちょっと、しつこい!」


 さくらは男を振り払おうとした。が、男がその腕を掴んだ。


「ちょっとだけでいいからさ、遊ばない?」

「や、離してください!」


 さくらは男の腕を振り払おうとした。が、男の力が強いので振り払えない。さくらは通り魔相手とは違った身の危険を感じた。


「ちょいと、そこの男。その子の手を離しな」


 女性の制止の声。さくらと男が振り返ると、そこには魔紗が居た。


「何だお前は・・・おいおい、日本人ばなれした良い女じゃねーか」


 魔紗はハーフ。そして容姿も端麗だ。男の手が魔紗のほうに伸びそうになる。


「よっ、と」


 魔紗はそういうと、男の手をとりひねり投げた。見事な背負い投げだった。男はどかっと地面に叩きつけられる。


「がはっ!」


 男は地面でもんどりうっている。


「海外は日本ほど治安がよくないものでね。身を守る術くらいは身につけているよ」


 と、言いながら、魔紗はパンパンと手のホコリを払った。

 男は起き上がり逃げ出していく。ほうほうのていで通りの向こう側へ消えて行った。

 と、猫まんも姿を現す。


「やれやれ、大丈夫だったかい。さかりのついた人間のオスか。季節を選ばないだけ、人間の方が節操はなさそうだねぇ」


「こら、猫まん! 助けにくらい来てよ!」


 さくらが猫まんに怒った。


「ただの人間が相手じゃあ、わたくしが出て行くわけにはいかないだろう」


 さくらは魔紗を見た。ナンパ男を相手に助けてくれた。根は悪い者でもなさそうだ。


「まったく、予定と違う者がほいほいと引っかかってくるとは思わなかったね」


 魔紗は両手を広げてやれやれといった風に首を横に振った。


「私はゴキブリホイホイか!」


 さくらは思わず叫んだ。・・・と、どこかから男同士が言い争うような声が聞こえてきた。


「なんだい。今度は酔っ払い同士の喧嘩か何かかな」


 魔紗が言い争う声を聞いてそう呟いた。飲食店も多いので、十分にそのような事も考えられた。だが、言い争う声が急に叫び声に変わった。


「「!?」」


 さくらも魔紗も猫まんもさすがに驚いた。叫び声の現場へと走る。

 路肩に倒れていたのは先ほどのナンパ男だった。


「なんだ。おい、何があったんだ?」


 魔紗が男に詰め寄った。


「お、狼男が現れた・・・」


 ナンパ男はそういって道の遥か前方を指差した。そこには街灯の明かりの元、人型の毛むくじゃらの姿が立っていた。狼男が振り返る。そして脇道へさっと入って行った。あっという間に姿をくらました。魔紗が狼男を追いかける。猫まんはさくらのそばについていることを選んだ。


「参ったねぇ。まさかこんなタイミングで出てくるとは」


 猫まんも狼男の気配には気がつかなかったようだ。しばらくして魔紗が戻ってきた。


「まんまと逃げられたよ。まったく、さすがは狼。狩りの専門家。泳がされていたのは私達の方だったみたいだね」


 魔紗は悔しそうにそう呟いた。

 さくらが足元を見ると、先ほどのナンパ男がだらしなく気絶していた。


「・・・釣れたのがこんな男一人だけじゃなくて良かった」


 さくらは策に一定の結果があったので満足した。捕まえられなかったのは残念だが、確かに狼男は存在した。


 ならば、あの狼男が件の通り魔なのだろうか。


 さくらたちが狼男と遭遇した翌日。山国町議会議員の事務所にて。

 一際立派な椅子に山国町議会議員が座っていた。以前の町議会の時のように、顔にヴェールはつけていない。

 事務所の中には風貌の悪いやくざのような男達がたむろしていた。彼らは皆はぐれ退魔師だった。風貌の悪さは化け物退治という荒事を行うゆえにそのような風貌だと彼らは言うだろう。実際に様々な手口で化け物を退治するが、非合法な報酬を請求する彼らはいわゆる裏世界の稼業の人間だった。やくざとのつながりも深い。

 山国議員が一同を見回した。


「諸君。この町の退魔師の連中が狼男と遭遇したらしい。おめおめと逃げられたようだがな。そんなやつらに任せていてはいつまでたっても事件は解決しないと思わんか?」


 と、語りかける。

 ガラの悪い男達の中に柔和な笑顔の男が一人混ざっていた。白いスーツに丸いサングラスの、人懐っこい雰囲気をした男だった。その男が一人前に進み出る。


「山国サン。私が動けば直ぐに解決するネ。この町の町長殿から我々の活動の許可は降りましたカネ? 権力者に筋を通さねば、後々面倒になるんでネ」

「フェイ・ユー。その心配は無用だ。この町に古く居る退魔師がしくじれば、正式に我々の活動の場が出来る。今は静観を決め込んでいても問題ないが、諸君らがやつらのようにふがいない真似をしないことを願う」


 フェイ・ユーと呼ばれた男は禍々しい笑顔を浮かべた。白いスーツに身を包んだ男。彼はチャイニーズ・マフィアとつながりのある道士だった。


「山国サン。あなた不思議な事言うネ。まるでわたしが彼らと一緒のように思っているネ?」


 フェイ・ユーが周りに居たやくざ同然の男達を見回して言った。


「なんだとぉ?」


 そんなやくざのごとき退魔師の一人がフェイ・ユーに凄んだ。その様子を山国議員が片手で制する。


「まぁ、まて。フェイ・ユーは私にとっては客人でもある。なぁに、互いに良好な関係を築ければ、私にとってはなんであっても問題はない。今は古くから居る体制派の連中がへまをしたと、ただそれだけで十分だ。ところでフェイ・ユー。この町の退魔師は道術にも長けている。道士であるあなたと果たしてどちらが上かな?」


 山国議員は意味ありげにフェイ・ユーに語りかけた。


「そういう事カ。イイネ。物事はわかりやすい方がイイネ。しばらく出かけるヨ」


 フェイ・ユーは愉快そうに笑って、部屋を出て行った。

 新たなる驚異が現れ、探偵事務所の先行きは不透明なままだ。

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