第23話 フロートファイト(1)

その日、自治区は暗いニュースも続く中、

人々は沿道に集まり目を輝かせてそれを待っていた。


警察の警備だけでなく


スタート地点はセレモニーの会場だ。

皆今日の大会を楽しみにしていたのだ。沿道の人々は食べ物を片手に応援するものもいれば応援用の旗を持ち選手の名前を叫ぶものもいる。


その様子を遠くから眺めるものがあった。

彼は時計台の上空から各国の機体を手持ちの双眼鏡で眺めていた。


「機体は旧タイプのラナフロートもあるが、装飾にこだわっていたり、魅せるレースというだけあるね。各国のラナフロートの技術がここに集約していると思うと、化学者として来ないわけにはいかないね。」

「博士、あまり目立つ行動は避けていただきたいのですが・・・」

周りにいる数名が神経質そうに警告する。私服で市民と同じ格好をしているが、その服のジャケットの中にはしっかりと武器が仕込まれていた。


「わかっているさ。最低限、だろ?」

そう言って男は苦笑した。


―――――――――――――――――――――――――――――――


チームは全てで7チーム、アクセルはナッセのリア、ナンさん、そしてアクセルというチームだった。最初がリア、次がアクセル、最後がナンさんである。

「中々練習に参加出来なくてすまなかったね。」

ナッセのナンが謝罪する。

「いいえ、ナンさんが任務でお忙しいのはわかっているので。ナンさんのような方と一緒のチームになれただけで感激です。」

アクセルがそういうとナンはその細い線で柔らかく微笑んだ。

ナンは軍人にしては柔和な雰囲気を持っていたが、その見た目とは裏腹に鋭い操縦技術を得意としており、電光石火のナンと呼ばれその名は帝国の兵士の間でも噂になっていた。


「帝国製のラナフロートは慣れないけれど、ナンさんとアクセルにつなげられるよう、頑張るわ。」

リアはそう言ってほほ笑んだ。

フロートファイトでは演舞を魅せても良いし、速さで魅せても良い。ルールの範囲であればその魅せ方は自由だ。

スピード重視で行く組もあったが、アクセルは結果はともかく、このチームでよかったと思った。

ナンさんは頼りになるが、決して上から押し付けるタイプではなかったし、リアもまた慣れない帝国製ラナフロートであったが、グランの搭乗員試験のある自分に気を遣って自主練習してわからないところだけを聞きに来てくれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


クラウスもまた出発地点で待機をしていた。

開会の儀で主催者側の一員として姿を現す必要があったのだ。


「出場してもらえて感謝する。」

マキ議員が開会の挨拶後クラウスに礼を述べた。

「ピルス司令が父君だったのだな。あのような立派な御仁が父君だったとは。」

「ああ、だが父と言っても養父だ。立派な人だが、、、たまに一言多い。」

「一言多い?」

「ちゃんと食べているのかとか。」

マキは目を丸くし顔を伏せた。

クラウスはよくわからなかったが、マキが笑っているのだということが次の瞬間わかった。

「ふっ、、、、ふふっ、、、ふふふっ」

最初に会ったときのようだ。とても柔らかい雰囲気で少女のように笑う。


クラウスが動けないでいると子供たちが近づいてきた。

「お兄さんが、、、クラウス・エリアデス・・・?」

怖がりながら聞いている。

「エクリプスの、、、、パイロット、、、、???」

恐る恐る聞いてきた。

「ああ・・・」

クラウスは少し身構えた。

自分はライダーの仇であり、この子たちももしかしたら、、、、


「あの、、、、」

子どもたちはなんだかもじもじしたり、きょろきょろしている。

その様子を見てマキ議員は何かに気づき、近くにいたガングルスを呼んだ。

「ガングルス議員!ガングルス議員!」

「お、なんだ、マキ?」

「ちょっと、、、、ああ、そうだ、そのあたり。そのあたりに立っていてくれ。」

「あ?」

ガングルス議員が腑抜けた声を出す。

だがガングルス議員の巨躯が来た事によってこの位置が丁度聴衆側から死角となった。

「これで向こうから見えないぞ。」

マキ議員が子供たちに言った。

クラウスは何が起きてるのか未だによくわかっていなかったが、

こどもたちの一人が目を輝かせて切り出した


「ほんものだ!」

「非公式で出た試合全部優勝してるんだぜ!」

「握手してください!」

こどもたちはとてもはしゃいでいる。


そうか、、、自治区のこの子たちの家族が反対しているから、それを気にしていたのだ。

マキ議員は見えないように隠してくれたのだ。

クラウスはようやく理解したが、嬉しいという気持ち以前に

とても想像だにしなかったことが起きていてただただ戸惑っていた。


戸惑っていたが子どもたちの為にグローブを取り一人ひとりとしっかりと握手した。

子どもたちはきゃっきゃとはしゃぎ、

途中一人の少女が遠慮がちにマキ議員を見上げたが、マキ議員も気にする必要はないというように何も言わず促してみせた。

少女はマキ議員がライダーの親族であることをよく理解しており、その仇であるクラウスとはしゃいでも良いものか、気にしていたのだ。


握手を終えると、クラウスの心にはようやく実感として喜びが沸いてきた。

「その仮面で素顔は隠せても、優しいのは隠せないな。」

マキ議員はやれやれというように言って見せた。

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