第22話 宇宙からの使者⑵

「ま、そんなに気にするなって」

テオが材料調達に行きがてら慰めてくれる。

「俺はそんなに気にしてないよ」

「そうかぁ?最近お前なんだか沈み気味だぜ?」


そうなのだろうか?

最近は嬉しいこともそうじゃないことも、とにかく目まぐるしく起きている。

ライダーのいた自治区に来られたことは凄く嬉しかったし、ファナと友達になれたことだって、、、

でもそのファナはメルファン議長を人質にとった張本人だったし、

先日の襲撃ではアクセルと同じモルデア人が相手方にいるのは確実だ。


「正直色々なことが起きすぎて、、、」

処理しきれないのが現状だ。

ファナは自分の目的を言えないと言う。だけどファナを、信じたい自分がいることをアクセルは自覚していた。


「ま、あんまり煮詰めすぎるなよ。それより、今から取りに行く部品なんだが、スペーステクノーラがナッセと共同開発した技術で、、、」

テオが明るい話題に変えてくれた時、アクセルは変な感覚を覚えた。

なんだ?どこからだ?


「アクセル、おい、アクセル?」

周りを見渡すと相変わらずの自治区の街並で、店と露店が並び人々が賑やかに小道を行きかっている。

アクセルはなんとなく一つの露店へと近づいていった。

そこには珍しい小物、各国のものであろう珍品が置いてある。店主は布で頭を覆っていて顔はよく見えないが、日陰の中静かに腰かけていた。


「そこのお兄さん。うちの店に興味がおありかな?」

店主がにんまりと語りかける。

「え?」

気づけば店にかなり近づいていた。テオも心配そうにみている。

「いや、そんなつもりは、、、」


店主は続ける

「うちでは各国の珍しい品々を取り扱ってるんだ。お客さんが興味があるのは、もしかしてこれかな?」

そういうと宝石を取り出した。取り出した宝石は澄んだ緑・青が入り混じり輝きを放っていた。

「これはかなり純度の高いラナ鉱石さ。お兄さん、見たところモルデア人だね。」

ラナ鉱石、、、それで惹かれたのだろうか?

アクセルが返事を出来ないでいると、店主が続ける。


「モルデア人なのに帝国軍人か。珍しいな。」

アクセル達が少し怪訝な顔をすると相手は急いで加えた。

「おっと、気を悪くさせたな。まあかくいう俺もモルデア人だ。」

そういってフードから覗いだ顔を見てアクセル達は驚いた。

モルデア人だ。


「なんでこんな石っころに惹かれるか、不思議なもんだな。この鉱石には宇宙空間の惑星にしか認められない成分と同じものが含まれているらしい。そんなものだからモルデア人というのはかつて遠い宇宙からきた一族なんじゃないかなんて話もある。」

知っていた。一部の馬鹿馬鹿しい都市伝説だ。


「それ自体は都市伝説かもしれないが、

だからか俺も無性に宇宙へ魅かれてね。ここに来れば宇宙へ近づけるような気がして着の身着のままやって来たってわけさ。」


男は軽快な調子で続ける。アクセルはそれが好印象につながるという訳ではないが、どことなくこの男に、ライダーに近いもの、雰囲気を感じていた。


「仕事中に引き留めたな。」

男はあまり固執せずアクセル達を本来の仕事に戻そうとした。

「いえ。とても面白かったです。」

そういうと男はまた笑った。


――――――――――――――――――――――――――


「本当ですか?議長・・・」

マキとガングルスは会議室でメルファン議長と次回議会に向けての資料の確認をしていた。

「ああ、本国からの通達だ。相手方の目的は定かではないが、敵方にモルデア人がいて今のところ有効な対策がない以上、それが一番良いとの判断だ。・・・マキ議員、ガングルスにも上手く繋いでくれ。」

マキは承知しかねるという様子だったが、しかしこれは議長よりも更に上からの通達なのだろうということを察しため息をついた。


「帝国の要人達は全て帰られたかな?」

メルファン議長が聞いた。

「いえ、レーシェのピルス司令達は軍の方にも顔を出されるということです。」

控えていたメルファン議長の秘書が答えた。

「ああ、それはそうだろうな。」

「??」

マキとガングルスが顔を合わせる。


――――――――――――――――――――――――――


「ピ、、、ピルス司令、」

レーシェの本部廊下でアルゴが固まっている。


「先日の任務に当たったものだな。ご苦労であった。」

ピルス司令が淡々と続ける。

「いえ、クラウス指導官のご活躍あってこそです。」

明らかに声が上ずっている。

その隣で同期の女子兵ラッテ・ウェーブズが緊張するアルゴを冷ややかに見ている。

「当初の予想よりもここの防衛は厳しいものとなりそうだ。気を引き締めて当たるように。」

「「はいっ。」」


ピルス司令の姿が消えた後アルゴはようやく一息ついた。

「変な声出てたぞ」

「だって怖いだろぉ~、ピルス司令。怒られないでよかったぁ・・・」

「この間アクセルに喧嘩売ってましたって言ってやろうか?」

「やめてラッテさまぁ~、、、あ、そういえばピルス司令は帰んねぇのな」

「クラウスさんに会う為じゃない?」

「あ、、、!そうか、いっけねぇ、、、、つい忘れるんだよな。

・・・あの二人が親子だって」


―――――――――――――――――――――――――

ピルス司令は会議室に入り資料に目を通した。

―新規自治区防衛計画要綱


「ふうっ」

ため息をつくとドアの前で待つものがいた。

「司令、失礼します。」

「うむ、」


そう言って入ってきたのはクラウスであった。

「息災か。」

「はい。司令もお変わりないようで安心しました。」

「襲撃の件での活躍、ご苦労であった。腕は落ちていないようだな。」

二人の会話は淡々としている。

ピルス司令はクラウスの親、というよりも正確に言えば義父である。


「自治区での任務はどうだ。顔見せではひどい洗礼を受けたと聞いたが。」

「いえ。自治区の住民の自分に対する反応は当然です。受け入れてもらう事は難しいかもしれませんが、少しでもこの街の人たちの力になれるように力を尽くしたいと思います。」

「そうか、、、結構。」

ピルス司令はそう言って立ち去ろうと立ち上がった。

クラウスは自分の思いを口に出して言えたことに安堵していたと共に、決意を新たにしていた。

―――そうだ。自分はこの街の人たちの為に尽くすのだ。


「だが、帝国にはあまり近づきすぎるな・・・」


司令はクラウスに短くそう言い残して去っていった。

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