第21話 宇宙からの使者⑴

その日、自治区は先日の争いが嘘かのような、晴天に包まれていた。

マキはその日自治区の帝国宇宙開発支部に来ていた。


作業場のエレベーターを待つ間マキはホログラムで先日の騒動に関する記事に目を通していた。


―宇宙開発反対派による軍事攻撃か

―歯もたたない自治区防衛

―自治区防衛体制への懸念と不安


見出しはそんなものだらけだ。無理もない。最新鋭の技術開発の拠点として華々しく開会したはいいものの出鼻から挫かれてばかりだ。

大事には至っていないが、全力を尽くしてこれでは今後が思いやられる。

今日もメルファン議長が緊急議会で来られない為にマキが現場に来ていた。


マキが記事を見ながら今後の自治区について懸念していると、

気が付けばエレベーターが到着し扉が開きかけていた。

扉が開いた、と思うと次の瞬間扉が閉じていく

「え、、っ!」

マキが急いで扉の開いている隙間に姿を見せると扉が再び開いた。

「マキちゃんか。」

作業服姿で恰幅の良い小柄な男性がそこにいた。


「おじさん!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「ごめんね。エレベーター閉じちゃって」

男性は淡々と早口でマキに謝った。

「相変わらずですね。テッケンおじさん。」

このテッケン・ニコンドは帝国の商人である。

宇宙開発、ラナフロート関連の部品の取り扱いを得意としておりマキとは父、ダッシュ・グランフェルトを通じてマキが幼いころからの面識があったあ。


「うん。この後また新しい貿易規定についてのカンファがある。先日の事件といい、目まぐるしく対応に追われるのはこちらも同じということかな。」

「そうですね・・・」


先日の自治区への強襲があってからというもの、緊急会議の頻度は激増しそこでの決定事項に対して各部署も対応に追われている。


「今日も第4版改訂第49条について揉めたよ。宇宙開発部門の中でもラナフロート性のものは開発局に報告し、開発に利用する移動具・作業用具もその例外ではない。完全ラナフロート性の製品のみならず部品の一部に含まれている場合も報告する事。ラナフロート性のものなんてこの業界では特にありふれすぎていて改めてどれがラナフロート性か確認するだけで時間がかかる。その為の人員と経費についてもこっちもちだ。恐らく先日のセレモニーや襲撃を受けての対応策だろうということを現場にも伝えておいたよ。」

テッケン氏は早口でとても頭の回転が早く、10秒あれば恐らく辞書3ページ分の内容は話してしまう。


「ありがとうございます。議長も先日の会見で自治区民へ説明したものの、本国と自治区内での調整に追われているばかりが現状です。」

「・・・貿易商として各地を渡っているからこそわかるが、どうも最近きな臭くなってきているよ。特にあの件について。」

マキ議員は眉を潜めた。


「あれに関しては〖膠着〗が答えだと思っていたんだけどね。どうもそうは思わない連中がいるようだ」

テッケン氏がそう言い終えるとエレベーターが到着した。


「さあ、僕もそろそろ戻るよ。自治区の皆君を褒めてたよ。一通り見て回ったが、混乱もあるが勢いのある良い連中が多い。いい仕事して親父さんを見返してやれ。」

マキは困ったように笑顔で返した。

「助かります。中々採算の取れない開発事業に尽力いただいて。」

「はっはっは。本当だよ。その代わり成功した暁には利益多めでね。なんてね、こっちはよくてもそっちは抵触するな。」

「より活気づいたこの街をまた、是非見にいらしてください。」

そういうとテッケン氏は笑って去っていった。


―――――――――――――――――――――――――――――


「だから、あれはモルデア人が相手にいるからだって」

整備場の中でどこからともなく声が聞こえた。

軍服をまとい、先日の戦いで損傷した機体に対して整備を急務で行っていた。

それはナッセのリューの声だ。

「まだ確証もないだろう。」

シンがたしなめる。

「そうは言ったって、あんな光学迷彩みたいなこと他に誰が出来るんだよ。

政府レベルじゃなくてそんなことが出来るってなったらもうそうだろ。」

リューも合いの手をゆるめない。

シンはため息をついた。

「・・・可能性はかなり高いだろうが、決めつけるのは危険だ。」

「あんなびっくり人間たちに攻め込まれたんじゃたまらないぜ。」

リューは周りを気にすることなく続ける。

リアはその会話がアクセルの耳にも恐らく入っているだろうと気づき、心配そうに遠くからアクセルを見ていた。


―――――――――――――――――――


「・・・アクセル。俺はこれからムビス司令のところに行く。整備に必要な資材をテオが調達に行くって言ってたから、お前も行ってこい。」


ロードが周りの声を気遣って声をかけてくれた。幸い、同じモルデア人でも部隊にいるヘッセは機体損傷がなかったので今日は別任務についている。

先日の事件以来犯人が、こういうと語弊があるかもしれないが、少なくとも敵方の中にモルデア人がいるだろうというのが世間の風潮だ。事実アクセルも恐らくそうだろうと感じていた。

それについて街の人、軍の内部で話されるのは頻繁に耳にしたが、皆それは衝撃的なことだったからこそ話し合い安心したいからであって、多くの場合他意はないのだということをアクセルは承知していた。

気にならないかと言われると嘘になるが、慣れている部分もあったので、むしろこういったロードや仲間の気遣いの方がありがたかった。


「ロードさん、でも、、、」

「試験勉強もあってろくに休んでないだろ、行ってこい。」

たしかに、アクセルはグラン搭乗員になるための試験を変わらず続けており、それに加えてこの騒動である。

流石に体力的にきついのも確かではあった。ただそれはロードもまた同じはずだ。このところロードだけムビス司令の元へ行くということも多い。

だがここはロードの心遣いに甘えることにした。


「ありがとうございます。」

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