第19話 来訪者たち(1)

その日、アクセルは任務の合間に一旦帝国軍寮に戻っていた。

来訪者が来ることになっていたからだ。

アクセルがグラン・スピカ搭乗員試験用の勉強をしながら待っていると、時間よりも少し早くその人物は現れた。


「失礼します。お待たせさせてしまってごめんなさい。」

そこにいたのは、ナッセの美少女、リアだった。


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フロートファイトの組み合わせが決まったのは丁度一週間ほど前のことだった。

あくまで街の人たちに喜んでもらうための催しとはいえ、勝敗のつくものでもある為、皆その組み合わせには少しそわそわしていた。


「よっしゃあああああ!クラウスさんと一緒だぜええええ!勝ったぁあああ!」

レーシェの本部でガッツポーズをしながらこれ見よがしに喜んでいるのはレーシェのアルゴだ。どうやらクラウスと同じ組を引けたらしい。

クラウスはその様子を横目に見ていたが、フロートファイト自体に出たことはなかったし、演舞的な要素もあることは知っていたので、そこまで力になれる気はしていなかったが、アルゴが心から喜んでくれていることは素直に嬉しかった。


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「ふん、お手並み拝見と行こうか。」

そうつぶやいたのはデゴウスのドラゴアナ・D・ライラだ。

「誰と同じ組になった?」

フォースが問いかける。

「レーシェの二人だ。一人はおフォースの気にかけているレーシェのエクリプス乗りだ。」

「そうか。いや、フロートファイトはレセプションだ。俺たちは俺たちのやることをするだけだ。」


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「ごめんなさい、アクセル、軍の任務だけじゃなくて忙しいって聞いたわ。」

ポッド型ラナフロートに乗りながらリアが答えた。

リアはナッセのラナフロート班だったが、ナッセのラナフロートは他国の者と比べて少し規格が違い、その操縦の練習をアクセルのところに確認に来たのだ。


アクセルの班はアクセル、リア、そしてナッセのナンさんという上官と組むことになっていたのだが、ナンさんはかなり忙しい人で、練習は一緒にせず当日合流する予定になっていた。


「いいんだ。気にしないで。俺もグランじゃなくてラナフロートは久しぶりに使うから、一緒に練習できてよかった。」

「このパネルは?」

「このパネルの操作でフロートメーターと浮上度が見られるんだ。」


穏やかな日ざしの指す中、

海から不穏な影が近づいてくることを、誰も知る由はなかった。


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「本当にわからないんだろうな?」

痩せて神経質そうな様子の男は隣にいた恰幅の良い筋骨隆々とした男にそう聞いた。

彼らは潜水しながら暗い海の中に潜伏していた。

「それも含めて試す為の出兵だ。奴らの力はまだ俺たちにも未知だ。」


船の深部の部屋では少年が両手を船体につけ広げていた。

その手からは青白い光が溢れ船全体を包んでいた。


「ふん、気味の悪いものだな。」

痩せた方の男はそう吐き捨てた。


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宇宙開発自治区の海域を巡視していた船はいつもの通り巡回をしていた。

「異常なさそうだな。」

「ああ、セレモニーの件もあったから気は抜けないが、ここのところ落ち着いているな。」

彼らは周囲をレーダーで確認していたがいつもと同じ、何の反応もしていなかった。


同じ船の甲板から、青年兵は海を見ていた。

この海域はたまに漁船がたまに迷い込むことがあることはあったが、その索敵はいつも自分たちが目視で気づくよりもずっと早くレーダー探知で認識されていた。

いつも索敵班から連絡がきて船上へ確かめに行くと実際にレーダーが示した方向に船を認めるといった調子であった。


その日も索敵班から何の連絡もなく、定時的な確認の為に外に来ていた。

何かがあるわけがないのだ。

何かがあれば、レーダーでとっくに索敵されているはずなのだから。

―――そう、そのはずなのに・・・・

なんだろう、いつもと比べて海の動きが一部変だ。

鯨でもいるのか?

そんなことを一瞬考えそんな馬鹿なと自分の仮定を一蹴した。

鯨など出る海域ではないのだ。ここは。


嫌な胸騒ぎを覚えながら索敵班に連絡を入れた

「2時の方向の海の動きがおかしい。索敵異常なしか?」


そう連絡を受けて索敵班は焦った。

二人で話している最中に見落としてしまったのだろうか、

いや、そんなことはない。レーダーは記憶上も記録上も反応なしだ。


「反応はないが、念のため航空衛星情報と照らしあわせよう。」

きっと見間違いだったということに落ち着くのだろう。

いや、そうであってほしい

そう思いデータに照合し胸をなでおろした。

「大丈夫だ、衛星データも問題な・・・」


そう言った瞬間大きな地響きがした


「前方!2時!敵船です!!!」

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