第17話 共に(1)
アクセルはクラウス教官の仕事とというのはよくわかっていなかったが、
レーシェのみならず宇宙開発自治区防衛全体における要であり、部隊の隊員としても、また、レーシェの戦略的参謀として忙しい立場にあるということは理解していた。
しかしクラウス教官は空いている時間を細かく説明し予定を合わせてくれただけでなく、時には自分の為に恐らく何かを犠牲にしているのではないかというくらい熱心に対応してくれた。
「アクセル、さっきのコースだが、カーブを曲がったところで予想以上に機体がぶれてる。難しいコースを走った後にも気を抜かないことが大事なんじゃないか。」
クラウス教官の教え方は教え慣れているという感じではないが、意識の面で注意した方が良いことや、知っておいたほうが良い機体の特性などを熱心に説明してくれ、確かな実力の伸びを感じていた。
「まだ時間がある。シミュレーターぐらいならできる。今のところを注意してやろう」
「はい!」
二人が熱心に特訓に励む様子を、マキ議員はそっと遠くから眺めていた。
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自治区内には、既存の宇宙船の発着スペースもあれば、新規開発部署もあった。
開発部署は国ごとに場所が異なっていたが、ガングルス議員はその日帝国開発部署を訪れていた。
公式な訪問ではなかったが、様子を見に来たかったのだ。
「ガングルス議員、これはこれは、いらっしゃるなら言って下されば」
ガングルス議員の姿を見つけて帝国の技術開発部長が手を止めてやってきた。
「いや、突然すまない。赴任前に一度見学に来させてもらっただけだったので、気になって訪ねてしまった。
だが俺はもう自治区の議員で、言ってみればこっち側の人間だ。俺以外に他の者も足を運ぶかと思うが、気にせず作業してくれ。」
「気にかけて下さりありがとうございます。今は、宇宙空間での作業用機の開発をしています。」
「おお、これがそうなのか」
新型のラナフロートであることは察しがついたが、これは宇宙空間用のものであったのか。ラナフロートが開発されてからというもの、その応用性の高さを生かして新しい製品や機械が次々と開発され想像が追い付かないほどだ。
「大型の宇宙船も勿論ですが、惑星への着陸が容易になってきたので、その後の作業用パッケージ開発が今の主力です。」
「そうか」
「自治区に赴任された皆さんが協力的で、私どもも士気が上がります。」
開発部長が感慨深げに応えた。
「当たり前だろう。それは。」
「はい、メルファン議長もそう仰っていました。採算の取れない宇宙事業に帝国本国がこれほど力を割くのは、それが軍事上の有利性につながるからということもあるが、少なくともここに赴任しているもの達はそうではないと。」
「そう思ってもらえるとありがたい。」
「マキ議員も、同じように激励して下さいました。・・・こう言ってはなんですが、帝国本国の御父上寄りの方かと思っていましたので、」
「おう、マキが?」
「はい、マキ議員もガングルス殿のように様子を見に来てくださったのです。」
――そうかマキが。
マキ議員は根回しがきくタイプの人間なので不思議はなかった。
帝国本国ではあまり関りはなかったが、こちらに赴任してからもすでに何度も助けられている。
「本国から無理を強いられることもあると思うが、それ以上にここをどこよりも夢に溢れ、若者が憧れる活気ある街にしようと、そしてそれが出来るのは我々の他にはいないと仰って下さいました。」
「そうだろう。マキは仏頂面だがいいやつだ。遠慮せず俺たちを好きに使ってくれ。」
ガングルスがそういって大きく笑うと技術部長もつられて笑った。
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アクセルが帝国寮に戻るとヘッセが任務の準備をして外に出るところだった。
「アクセル、お前クラウスさんに教えてもらってるのか?」
ヘッセが声をかける。
「・・・うん」
アクセルは素っ気なく返事した。あまり大ごとにしたくなかったが、アクセルがクラウス指導官に技術指導をしてもらっていることは多くの隊員の知るところとなっていた。
「いいなあ。あんな上手い人に教えてもらえて。」
「そうでもないよ・・・」
「そうか?師匠と弟子ってかんじだぞ。」
「そんなんじゃない!そんなんじゃ!」
アクセルは思わず強く打ち消してしまった。
アクセルが強く出たのでヘッセは驚いている。
「ごめん、でもそんなんじゃ、、、指導官は、ライダーの敵なんだ・・・」
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ファナの朝は早い。
ファナの通うエルジュ学園は敷地から離れており、片道1時間はかかった。
「ファナーーーー!」
後ろから小走りで声をかけてくれたのはソフィシェだ。
「ソフィ!」
ソフィは駆け寄ってファナを抱きしめた。
「会いたかったわぁ。アークスの事件は大丈夫だった?」
「ありがとう。お陰様で何ともなかったわ。」
「よかったあ。とっても心配してたのよ。」
「ごめん・・・あんまり心配かけたくなくて黙っていたんだけど、かえって心配させたわね。」
ソフィはううんと首を振り、二人は学園に向けいつもの通学路を歩き始めた。
「はあ。ファナがいない間とっても寂しかったのよ。学校はベリルが威張っているし、、、これからきっとファナもバルドアさんみたいに有名になって、会えなくなることも増えるのね。」
ソフィがそう言うのでファナは困ったように笑ってみせた。
「うちの両親は集会に熱心で家でもオルティアの環境保護対策について議論しているわ。勝手にやる分にはいいけど、私もたまに連れていかれるときがあるのよ。見たいドラマが今いいところって時に限って声かけるんだから。」
環境保護主義は確かに世界の一つの大きなパラダイムであったが、実際にそれに取り組むことは不自由さも多くはらんでいた。バルドア氏はカリスマ性と手腕をもってそれらの不安や不満を上手く宥め、皆が次世代の為に誇りをもって生きられる国造りを目指していたが、人の性はそう簡単に変えられるものではない。
バルドア氏の政策への不満はそのまま娘のファナに対して向けられることもあった。
保護主義政策の過程でかねてからの領地や利権を失った者も多く、学園でファナはどちらかというと肩身の狭い思いをしていた。
ソフィはそんな中でも心を許すことの出来る数少ない友人の中で一人であった。
ソフィ自身、家の中でのことや政策への文句を口にすることはあるが、それは決してファナに向けられたものではない。
年頃の少女として誰もが共感できる一般的な思いを言っているだけで、そこに誰かを本当に憎む気持ちや恨む気持ちがある訳ではないのだ。
ファナもまたそんなソフィだからこそ安心して一緒にいることが出来た。
「それよりファナ、いい人はいないの~?」
「!?と、突然何!?」
「だって、世界中そんな風に回ってたら、素敵な人にも会うでしょう?」
ソフィは目を輝かせている。
「ボーっとしてると、別の誰かに取られちゃうわよ!?」
「えっ!?」
ファナが明らかに動揺すると、ソフィは喜んだ。
「えー!?何!?今の反応ー!」
少女たちはいつものようにふざけながら、学園に向かった。
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