第16話 ユニバース(2)
「お父様、戻っていらしたのですね。」
大広間でファナは自分の父親、いや、環境保主義団体オルティアの代表であるバルドア・サフィアに声をかけた。
「ああ、アークスでのシンポジウムで襲撃に巻き込まれたと聞いた際は驚いたが、こうして顔を見られてよかった。」
バルドアはそう言って娘に向かってほほ笑んだ。
「大丈夫です。私にはオビがいますから。」
「それもそうだ・・・だが、お前はそういった表の舞台には出なくてよい。それは私の仕事だ。今は学生生活に集中しなさい。これから人と会談する、向こうに行っていなさい。」
「はい・・・」
ファナは眉を潜めた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ファナ達の住む城の脇には小さな温室があった。
そこには草木が手入れされファナの好きな花や木も多くあった。
いや、むしろ温室はファナの管理できる庭のようなものでもあった。
ファナはいつものように花に水をやりながらアクセルのことを思っていた。
緊張の絶えないこの生活の中で、唯一心を開けた瞬間だった、一瞬だけでも、心からの友達になれたのに、なぜこんなことになってしまったのか、
巻き込んでしまったことへの罪悪と、真実を隠さなければならない苦痛とを考えていた。
今頃アクセルはどう思っているだろうか。
私にも失望しただろうか。巻き込むだけ巻き込んで、何も打ち明けないのだから。
「いい庭だ。草木が活き活きとしている。」
振り返るとそこには一人の男が立っていた。見たことのない顔だ。
「あなたは、、、?」
「申し遅れました。ファナ姫。私はミハエラ・ギャラクシズです。」
男は不敵に笑った。
「・・・あなたモルデア人ね?」
「はい。お目の通りです。」
「父に会いに来たの、、、?」
「今日は御父上に会う人物の付き添いで。途中でこちらの庭園が目に入ったので、つい、私だけ寄り道を。」
「そう。」
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「フォース、フォースってドラゴンマスターなんだよな?」
ロードがフォースに声をかけた。アルゴも後ろに一緒にいる。
少しフォースの手が空いたところを見計らっって声をかけたのだ。
「ああ、お前たち、ドラゴンに興味があるのか。」
フォースが答える。思いのほか柔らかな返答に皆ほっとしていた。
「ドラゴンの巣見たことある!?」
「ドラゴンマスターってドラゴンと戦うんだろ!?」
「ばか、今はもうドラゴンを制御できるように電極を埋め込むって聞いたぞ!?」
普段は張りつめた雰囲気のフォースが思ったよりも柔らかく返事をしてくれたので、みんな矢継ぎ早に質問をしていく。
フォースは笑って答えた。
「ドラゴンの巣は流石に見たことがない。
なるべく管理はしようとしているが、巣にまで立ち入ることはない。
戦いに関しては、ドラゴンマスターは基本的にドラゴンとは戦わないが、訓練の過程で暴れたドラゴンを制御するためにどうしても手を上げることはある。」
はあー、と皆から感嘆の声が挙がる。
フォース自身は気が付いていないかもしれないが、ドラゴンの話をするときのフォースは表情も穏やかだ。
「レーシェでも普段の訓練はこうなのか?」
フォースがアルゴに尋ねた。
「訓練か?まあ隊列確認はするけど、クラウスさんにこんな風に教えてもらえるのは初めてだな。」
「そうか・・・」
そう言うとフォースはクラウスの方へ近づいていった。
「クラウス教官、隊列変形の練習もいいが、基本飛行の手本を見せてもらえないだろうか。」
周囲の空気がざわついた。
フォースがクラウスをあまりよく思っていないのは皆薄々気づいていたが、
彼が礼儀を重んじる人間であることも知っていた。
規律を乱す人間ではなく、むしろ礼節を重んじるフォースが物申したことでクラウスがどう反応するかということを皆気にしていたのだ。
「わかった。何をすればいい?」
クラウスは即答した。
周囲の人間からはこの微妙な雰囲気をクラウスがわかっているかどうかは全くわからなかった。
フォースが設定したコースはそれほど難しいものではなくどちらかというと中級のものであったが、そのレベルの中では基礎的な力をしっかりと試されるもので、
そのコース選択はグランレースの出場者のフォースならではだと思わせるものだった。
クラウスが愛機エクリプスに載ると皆感嘆の声を挙げた。
伝説の機体に伝説のパイロットが載るのだ。
クラウスはそんな皆の目線を知ってか知らずか、淡々とラナフロートで表示されたコースを走った。
「なんか、、、、地味だな、、、、」
見上げたロードがつぶやいた。
決められたコースを競争相手もなく淡々と飛行するその姿は確かに地味だった。
地味だったがフォースやアクセルはグランレース用の練習で自身もこのコースをよく走行したことがあるので、その凄さは十分にわかった。
簡単そうに見えて難しいポイントがいくつもあるが、クラウスは初の飛行で、操縦しにくそうにしている部分もあるが、それでもすぐに慣れたような感覚で飛んでみせた。
―――飛行の天才なんだ。この人は。
アクセルはそう思った。
クラウスが戻ってくるとフォースは非礼を詫びた。
「教官、場の規律を乱すようなことをしてしまって大変申し訳ない。貴殿の今の飛行はとても高い技術と鍛錬の必要なものだ。敬意を表したい。」
フォースがそう言った。
「いや、、、自分も指導の立場に立つのは初めてだ。こういった声もあることがわかってよかった。」
レーシェの隊員は皆誇らしそうにしている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「クラウス教官」
訓練の後クラウスに声をかけてくるものがあった。
訓練内容や隊列変形への質問などを受けることもありそう珍しいことではなかった。
「?」
この兵は、先日アルゴと競い合っていた帝国の子だ。
ライダーに憧れて軍に入ったという話を、偶然にも帝国本部でムビス司令に案内を受けている際に聞いていた。
「あの、グランのパイロットに今度志願するんです。それの試験飛行があるのですが、ご指導いただけないでしょうか。」
クラウスは一瞬面くらったが、アクセルの表情が真剣そのものなことに気がついた。
突然の申し出に最初は困惑したが、憎んでいて当然のはずの自分に頭を下げているのだと思うと、力になれないかという気持ちが沸いてきた。
―――ライダーが出来なかったことを、この子にしてやりたい。
「そうか、、、不定期だが訓練の後時間が空くことがある。その時に見るのでも構わないだろうか。」
アクセルは頼んでみたもののどう返事が来るかは想定していなかった。
クラウス教官がどのような人物か全く知らなかったし、それを知るためにもまず声をかけてみたというところもある。
向こうがどう思っているのかは仮面で表情が隠れていることもあり読み取れなかったが、
指導してもらえるということはありがたかった。
「ありがとうございます・・・!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふんふーんふんふーん♪」
その空間は広く白を基調とした空間だった。
広々とした空間には机と、ホワイトボードと、そして青年と少女が腰かけていた。
少女は先ほどから鼻歌を歌って勉強をしているが、もう一人の青年は一向に黙々と机に向かったままだ。
「はーかーせー」
少女は青年にそう呼びかけるが“はかせ”と呼ばれた青年は目もくれず一向に目の前のホログラムで論文らしきものを呼んでいるだけだ。
「はぁーーかーーせーーーー」
少女が頬を膨らませてせっつくが青年は少女を無視している、というより集中して気が付いていないようだった。
「もーう!」
そういうと少女は立ち上がった
「いた!?痛い痛い!かみ!髪を引っ張らないの!」
青年は少女に髪を引っ張られてやっと声をかけられていたことに気が付いた。
「はかせ、私宿題に飽きちゃったの。何か面白いお話しましょ♪」
少女が無邪気に微笑むと、“博士”はとても困った様子で紙にペンを走らせ少女に渡した。
「・・・・・じゃあ、これやっといて」
「・・・?これ!マーグル予想じゃない!」
少女がそう言って驚いたが博士はもう机の論文に目を戻している
「もーーーう!私は博士の計算機じゃありません!!!」
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