第15話 ユニバース(1)


―今わたしたちの存在するこの空間は均質ではなく、

空間というのはとても歪なねじれを抱えながら存在するものである。


空間に関する革新的な概念を打ち出されたのは今から50年程前だ。

その理論は年月を重ね体系化され、人類に新たな発展の道を示した。


その概念が空間圧縮ユニバース理論として体系化され、実用化の兆しを見せたのは13年程前になる。

天才と呼ばれてあまりある科学者ユーリ・シュヴァルツ博士によって打ち出された空間圧縮理論は、ラナ粒子を用いて空間を人為的に歪ませ圧縮、空間を“切りとる”ことで超速度での移動が可能になる、というものであった。


当時その理論は眉唾ものだと嘲笑される一方で、反証を探すほどにその理論に穴がないということがわかり、ここ、レーシェのバッハシュートで大規模な実験が行われることになった。


空間圧縮理論、ユニバース理論は人類の宇宙進出を飛躍的に推し進める可能性を秘めるものとして多いに期待されたが、

結果は人類の希望を打ち砕くには十分すぎるものであった。

ユニバース製造機はその過負荷に耐え切れず自らを飲み込んだだけでなく

研究施設、その周辺にあった街、山、川、全てを切りとった。

圧縮された空間は切りとられたように何も残らず、全ては初めからなかったかのように、荒野だけが広がった。


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各国の要人たちはその日、物々しい警備に囲まれながらその地にたどり着いた。

宇宙開発自治区開催のセレモニーの際も各国の代表が集まったが、

荒野広がるその地に降り立ったのは自治区開発時を遥かに超える国々の面々であった。


「実験で失われた尊い御霊に、一同、黙とう。」

その声とともに陳列した面々は一同黙とうを捧げた。


「しかし、何度見ても身震いする恐ろしさですな。これは。」

帝国のビーズ・グステンは隣にいた強面の男にいった。

強面の男は荒廃した大地に目を向け、再び歩き出した。

見上げた先には一面にえぐれた大地と荒野が広がっているだけだった。

かつてここ一体に街があり人々の生活が営まれていたことを誰が想像できるだろうか。

そんな面影を全く残さないほどに大地は切りとられていた。


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「トード。元気にしていたか。」

マキ議員が色白の青年に話しかける。

「久しぶりって言ったってこの間ぶりだろ、マキ。」

「仕方ないじゃないか。“式典”に出ない訳にはいかん。」

「いいのか?メルファン議長たちは今色々な国に挨拶してるように見えるぞ。」

トードと呼ばれた青年はマキ議員をせつく。

「良いのだ。今丁度レーシェ本国サイドに行っているところだ。ウルスがいる。無視するに限る。」

「気に入られてるからな。」

トードがそういうとマキ議員はふんと鼻で返事した。


「おーおー、マキ議員。これはこれは、お父様の顔を見に来られたのかな?」

「これはビーズ殿、いえ、ここにいるトードに少し用がありまして。」

「聞けば自治区でも相変わらずの人気ぶりだとか。やはり若く美人で、おまけに名のある議員がいて下されば我が国の自治区も安泰というものですな。」

トードはマキを見やったが、マキ議員はにっこりと微笑んでいる。もうこれは本当にビーズ殿を心から尊敬しているのではないかと思える程の笑顔だ。

「ありがとうございます。ビーズ殿も、どうか本国で父を支えて下さい。ビーズ殿や父が本国にいらっしゃるからこそ我々も自治区の経営に心置きなく専念することが出来るというものです。」

ビーズ議員もまんざらではなく満悦した様子だ。どちらもどうにも本心が掴みづらい。トードはそう思った。


ビーズ議員が去っていった後再びトードはマキ議員に話しかけた。

「でも本当にいいのか?ダッシュさんに挨拶しなくて」

ダッシュ・グランフェルトはマキ議員の父親にして、帝国本国最高評議会の幹部であった。

「これだけの各国首脳陣が集まっているのだ。向こうもそれどころではないだろう。先日のアークスの一件もある。」

「・・・あれか。まだ内密にしているんだろう?」

「ああ。だが表ざたにしたところで何のカードにもならない。あちらの機体を見たといっても証拠はないし、どうにも旧型の機体らしい。関わりないと言われたら嘘かもしれないし、本当かもわからない。」

「そうか・・・式典もこれで最後になるかもな。」

マキ議員もトードも少し押し黙った。


「そっちの“二人”はどうだろうか?」

マキ議員がトードに尋ねた。

「うん。まあ骨が折れるけどなんとかやってるよ。そっちは?」

「ん?ああ、色々トラブルに巻き込まれてるが、問題ないんじゃないかな・・・」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「それでは、今日は飛行の訓練を行う。」

クラウスの訓練は具体的な飛行訓練の段階に入っていた。

各部隊を超えて展開される陣形の確認や全体の飛行練習が主な内容だった。


「なあ、アルゴ、声かけろって」

そうアルゴをせつくのは帝国のロードだ。

「えぇ、ロードが声かけろよお」

二人は休憩の合間に腰かけているデゴウス王国のフォースの方を見て話し合っている。

二人は帝国とレーシェで本来なら少し軋轢のある国同士の隊員であったが、同じオンラインゲームをしているという理由で仲良くなっていた。


デゴウス王国はドラゴンの生息地として有名であり、荒ぶるドラゴンを従えてきた国の民は皆勇敢で誇り高かった。

デゴウスから自治区にやってきたフォースとライラはドラゴンマスターということもあり近寄り難い雰囲気を二人とも醸し出していた。


だが、ドラゴンを操れるというのはどう考えても格好良すぎることであった。

フォースとライラを皆尊敬と興奮のまなざしで見ていたのだ。


そんな会話をロード達がしている中、アクセルは上の空で、先日のことを思い出していた。


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タンク博士を無事敵襲から守ったアクセルはその後港にいた帝国の保安部隊と合流した。

最初は保安部隊の隊員達も動揺していたが、事情を説明し、彼らが上層部と連絡をとったところ、

タンク博士をは帝国で身柄を保護されることとなった。


「まあ、そう気にしすぎるのも良くない。」

博士がファナとのことを気遣ってくれた。

「ありがとう、博士。」

「お前さんと話せて楽しかった。帝国に行くんじゃ。また会うこともあるじゃろ。」

そう言って博士は笑った。

「そうそう、お前さんの運転を見ていて思ったことがある。」

「?」

「お前さん、ライダーに憧れてるという話じゃったが、運転の癖や考え方など見とると、どちらかというと、レーシェのあっちに似とるぞ。」

「あっち?」

「ライダーを撃った、、、ほれ、クラウスじゃクラウス!」

「!?博士、知ってるんですか?」

驚いた。クラウス・エリアデスは確かに有名な軍人だが、レースにはほとんど出ないし、アクセルも先日レセプションで目にしたのが初めてだったからだ。

「ああ、昔レーシェで行われた技術博覧会の模擬試合みたいなものに、恐らく軍の任務か何かで出たんじゃろ。その時に見かけての。ライダーの飛行やら運転やらもよう見たが、お前さんの走りはどっちかというとクラウスのそれに近いように思う。」

・・・そうなのか、運転や飛行の際の癖なんて考えてみたこともなかった。

「同じ地で働く縁があるのなら、色々教わるのも良いかもしれんぞ。」

博士は去り際にそう言って去っていった。


そう言ったって、、、一体どうすればいいんだ。

相手はライダーのかたきなんだ・・・

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