第14話 アークス開戦(2)

「アクセルくん!すまないな。頼む。」

会場に戻るとフィックスさんとチームの人たちが待っていてくれていた。ラナフロートバイクの浮遊特性についての研究なので場所は必要がなかったが、安全を考慮し屋外のブースで展示発表は行われることになっていた。


フィックスさんの班の発表は中々盛況で発表の終了後の質疑応答は盛んにおこなわれた。

アクセルの担当するバイクの実施運転だが、予め練習していたのとそんなには難しい動作ではなかったので滞りなく終わった。


発表の終了後、フィックスさんやチームのメンバーが改めてお礼を言ってくれた。

「今日は本当にありがとう。」

「いえ、すみません。そしたら、、、」

「ああ、この後用事があるんだろ?もし途中で打ち上げに参加したくなったら後からでも来てくれ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――


技術博覧会の会場から10㎞程離れた場所で、そのシンポジウムは行われていた。

アクセルと博士が到着した際にはプログラムも佳境を迎えていた。

コースターの下に書いてあったメッセージを見たアクセルと博士は午後も行動を共にしていたのだ。

メッセージの真偽のほどは定かではなかったが、念のために今日は博士と一緒にいることに博士と話し合って決めていたのだ。どう対応してよいかわからないところだったが、セレモニーの時と違いラナフロートバイクを今日はあるので、いざとなったら博士を乗せて安全な場所へ行くしかないと思っていた。


「それでは、オルティアのファナ姫様から挨拶があります。」

会場のライトが落ち話し手が立つ場所へのスポットライトのみになった。

舞台袖から出てきた少女は白いライトの下に出てきた。

黄金の髪がライトに照らされ、彼女がそこにいるだけで何か神聖な雰囲気が生まれるようであった。

会場の人たちも何か静粛な雰囲気を感じ取っているようだった。

「あの子がガールフレンドかい?」

博士がそう言って横から話しかけてくるが、アクセルは少し困った顔で博士を見るだけですぐに会場に視線を戻した。

ファナ姫は今後の地球の持続的発展の上での環境保全の重要性、今回のシンポジウムの意義などを述べている。


来てみたは良いが、自分はどうしたいんだろうか、彼女に何と声を掛けたらよいのだろうか、漠然とした思いでアクセルは会場を眺めていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――


暗闇の中、その声の主は作戦の合図をもう一人に送った。

「いくぞ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――


その時、会場に地響きが鳴り響いた。

観客がどよめくと会場を唯一照らしていたスポットライトが割れる音がし、あたりは真っ暗になった。


ライトを撃った人物は暗視スコープを用いて会場を見渡したが目的の人物がいないことに気づいた。いや、この短時間でいなくなるわけがないと思い当たりを見渡したが

それらしい人物は見当たらない。


「シュツ、入り口のところだ!」

通信先の主から連絡が来る。見やると入り口のところに二人の人物が他の人達よりも早く外に出ようとしているのがわかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「博士!乗って」

アクセルはヘルメットをタンク博士に渡した。

「ああ、いや、早めにかがんだのがよかったの。」

襲撃か何かが来るかもしれないという予測はアクセルたちの判断を一瞬早め、その差が功を奏した。


―--上手く撒けるだろうか。


敵がどのくらいいるのかもわからないしどこにいるのかもわからない。アクセルは少し心配になったがラナフロートバイクが手元にあるというだけでかなり有利なはずだと信じバイクを走らせ始めたそのとき、博士が後ろからの追跡者に気づいた。

「アクセル!後ろから来とる!」

「!?」

「しかもありゃお前さんと同じ、ラナフロートバイクじゃ!」

「!・・っくそ!」


アクセルは一気に加速し道路を駆け抜けた。途中信号があったが勿論見ていては捕まってしまうのでやむを得ず無視して走りゆく車の間を縫いながら走行した。


「まだ着いて来てますか!?」

後ろにいるタンク博士に聞いた。

「ああ、しかも早いぞ!」

「っつ・・!」

アクセルは十字路のところでカーブしたが相手も難なくついてくる。

一瞬そこで後ろを振り返ったが、予想に反して自分よりも少し小柄な人物が搭乗していた。


「走りは早いが安心せい。追って来とるのは今のところ一台じゃ!」

そうは言っても向こうの方がほんの少しだが早い。

さっき一瞬振り返った際に銃を持っているのも見えた。このまま単調に走り続けたら距離を詰められて危険だ。


大通りをこのまま走っていても勝機はない。

アクセルはそう思い急カーブして細い路地に入った。

「これでどうだ!?」

かなりのカーブだ。着いてこられないだろう。

「だめじゃ!着いて来とる!」

博士が声を張り上げる。

「くっ、」

そう思ったその時、路地に置かれていた大きな荷物が目に入った。

アクセルは咄嗟にラナフロートの噴射を調整して機体を浮かせて飛び越える形で避けた。

「さすがに追って来れないだろ!!」

そう思い後ろを振り返ると相手も障害物をラナフロートで乗り越えたところだった。

「嘘だろ!?」

今の障害物は俺は先頭を走っていたからかなり早く気づけたが、後ろからは俺の影で気づくのが遅れたはずだ。・・・それに対応するなんて・・・


大通りに戻り再び別の路地に入り込んだがジリジリと距離を詰められてきている。

ここまでだろうか、そう思ったその時、タンク博士がつぶやいた。

「お、いいものがあるぞい」

「?」

あと少しで射程距離に入りそうかと思ったその時、博士が持っていた大型の懐中電灯を相手の目にあびせた。

「ほれ!」

単純な手だったが空いては見事に体制をくずし一旦バイクを止め、その隙にアクセルは一気に距離を引き離すことに成功した。


「博士。ありがとうございました。」

「うむ、相手もずいぶん若く見えたがの、、、橋のところまでいくぞい」

そう言って進行方向先の港にかかる橋の下までバイクを走らせた。


――――――――――――――――――――――――――――――――


橋の中腹のところで、ある人物が佇んでこちらを見ている。

俺はその人物に見覚えがある。いや、その人物に会う為にここに来たのだ。


「ユリシア、、、いや、、、、ファナ・・・。」


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月明りが港や海を薄暗く照らしている。

目の前にいる人物はセレモニーで出会った少女、ユリシア、そしてファナ姫に間違いがなかった。

「アクセル、、、協力してくれてありがとう。」

ファナは淡々と答える。

“タンク博士を守れ”と書かれた文だけを見て、ある種確信的に動けたのは、どことなくそれを差し出したウエイターがセレモニーの時にファナに同行し、メルファン議長を拘束していた男に似ているように思ったからだ。


「ファナ、君はどうしてこんなことを?」

問いかけたがユリシア、いや、ファナは沈黙を続けている。

その表情は少し苦しそうだ。


その時、橋を挟んで両脇から2台の機体が突如浮かび浮かび上がった。

2機とも海中から現れ橋には大きく水しぶきがかかった。

2機はおそらくラナフロートで、浮上後お互いに撃ち合い牽制しあっている。

港側からは車や機体を運べるクラスのトラックも集まってきている。おそらく帝国の保安部隊ではないだろうか。


ファナはそちらには目をくれずこちらに近づいてきた。

アクセルの方を暫く見つめていたが、横にいたタンク博士に目線を移し、こう告げた。

「タンク博士。あなたのエネルギー安定化の技術は狙われています。技術とはときに凶器となり人を襲いうるものです。

走り出したそれを止めることは出来ないのかもしれない。

けれどあなたがその技術をグランレースという夢に託したように、それがどうか人の絶望へとつながらない未来を信じます。」


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ちょうどファナがタンク博士に話しかけているころ、追手のラナフロートバイクがようやく追いつき橋の麓に着いた。

銃に手をかけたその時、通信が入った。

「シュツ!撤収するぞ!」

それは今橋を挟んで帝国保安部と戦闘している仲間からだ。

「目標は目の前だ!」

「ダメだ。分が悪すぎる!撤収だ。」

そう言われてシュツと呼ばれたその人物は悔しそうに橋を見つめながら橋から離れた。


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ファナは戦闘状態にあった海側の機体が撤収しようとしているのを確認して橋の反対側に去っていった。

「ファナ!俺は、グランのパイロットになる!」

アクセルは去り行くファナにそう告げた。

ファナを守りたいという気持ち、ライダーへの憧れ、その言葉にどうしようもない今の気持ちを込めて。


――――――――――――――――――――――――――――――――


襲撃した機体を相手にしていた保安隊の隊員が通信で港にいた上官に話しかけた。

「追いますか?」

「いや、急ごしらえのこの機達ではあれには追い付けん。」

上司と思われる男が積まれたラナフロートを見やって答えた。

「しかし、あれは、、、」

「ああ、わかっている・・・。レーシェの機体だ。」

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