第13話 アークス開戦(1)

アークスは帝国とナッセの中間に浮かぶ島で年間を通じて気候が良く保養地として多くの観光客に親しまれていた。

「悪いね、アクセルくん。軍の任務もあるのに、無理言ってこっちに来てもらって」

そう言って誤っているのはテオの先輩であるフィックスさんだ。

「いえ、連れてきていただいた上に、勉強まで教えていただいて、俺こそありがとうございます。」


アクセルが任務の一環としてここ、アークスにいるのは友人の整備士、テオにアークスで開催されるラナフロート技術博覧会のテストパイロットを頼まれたからだ。といっても、実際にブースを構えるのはテオの先輩のフィックスさんで、アクセルはフィックスさんとそのチームの人たちとで現地に向かった。

勿論アクセルとて任務や自信のグラン・スピカパイロット適性試験の準備でそれどころではなかったが、どうしても確かめたいことがあったのだ。


空港からはフィックスさんのレンタカーで会場にまでやってきた。

フィックスさんには連れてきてもらった上に、グラン・スピカの搭乗員試験の話をしたら、座学でわからなかった関連分野の部分を途中途中教えてもらうことが出来た。

最初は忙しいので断ろうと思っていたが、フィックスさんの教え方はとてもわかりやすく、かえってよかったとすらアクセルは思った。


アークスで一泊して今日を迎えたが、フィックスさんの展示は今日の午後の数時間だった。ここに来るまでの間と、昨日の時点とで予め今日の手はずは確認したので、お昼の時間帯は自由時間としてもらった。

そうは言ってもあまり遠くへ行っては迷惑がかかるので、アクセルは博覧会のブースを見て回ることにした。元々興味があった博覧会だったため、空き時間に観覧出来ることはむしろ嬉しいことだった。


ブースを見て回ると新型のラナフロートバイクの展示コーナーがあったので、近づいてまじまじと見ていると先に隣にいた人物が声をかけてきた。

「若いのにめずらしいの、興味があるのかい?」

その人は背の低く白ヒゲの生えた体格の良い老人だった。

「はい、実は、ラナフロートバイクに俺も乗ってて」

「ほう!そりゃすごい」

老人は驚いた顔でこちらを見た。

「ううん?・・・おぉ?お前さんもしかするとこの間のセレモニーの選手か!?」

「!?知ってるんですか?」

「ああ、わしはグランレースにも目がなくの、レースや選手はよくチェックしておる。しかし、お前さんぐらいの歳で活躍している選手を見るとライダーを思い出すのぉ。」

「ありがとうございます。嬉しいです。俺は、ライダーに憧れてこの道に進んだので」

「そうか!いや、昔はライダーのバイクやら機体やらもたまに見とったよ」

「え!?」

広いようでグランやラナフロートバイクの世界は狭いということだろうか。

「まあ色々縁があっての・・・。昼も近い。よかったら近くで飯でも食べるかね?」

老人からの思わぬ提案にアクセルは喜んで頷いた。

アクセルもその老人も、後ろから見ている人影には気づかなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


アクセルは老人に午後の予定を説明し、会場からあまり離れていないオープンテラスのあるカフェで軽食を取ることにした。

「わしの名はタンクじゃ。ラナフロートバイクのエンジン開発を今は主にしておる。」

「エンジンですか?」

「まあそうじゃな。それ以外にも整備やら、まあ色々しておる。

昔からレースが好きでの、選手の面倒をみたり、開発をしたり、自由にやっとるが、レースがわしの原動力じゃ。」

タンク博士はホットサンドを食べながら嬉しそうに語った。

「ライダーとは自治区で?」

「いや、ライダーは軍に入る前に世界中ブラブラしとった時期があっての、ワシがあやつに会ったのもその頃じゃ。どこからかワシの噂を聞きつけてフラっと現れおった。その頃のライダーはバイクもラナフロートじゃなかったし、グランの乗り方も知らんかった・・・。ちなみにその辺の基本の乗り方を教えたのもワシじゃ」

アクセルはえ!?と思った。それってすごくないか?ラナフロートバイクは只でさえ乗るのが難しいしグランに至っては帝国ではかなりの乗り手だったからこそ軍でも出世したのだ。

「全く知りませんでした。そんな師匠がライダーにいたなんて」

「ふぉっふぉっ。まあワシも昔乗っていたのもあるし、あやつは筋が良かった。一々聞いてくることが的確での。たまに鼻についたくらいじゃ」

そう言ってタンク博士が笑うのでアクセルも想像して笑ってしまった。


2人で楽しく話していると、テラス席で横を通ったウェイターがこちらに飲み物を置いた。

「お客様。飲み物になります。」

そういうとウエイターはグラスを置いて去っていった。

「あれ、俺飲み物なんて頼んだだろうか?」

そう思ったがウェイターはもう姿を消していた。

「アクセル。コースターのところに何か書いてあるぞ。」

「え、、、」

グラスをずらし、見るとコースターには短くこう書いてあった


“タンク博士を守れ”

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