第10話 アルゴ参上!(3)

アクセルとマキ議員がデッキで話している頃、同様にデッキに近づく二人組があった。


「クラウス君、案内はここで最後だ。本部中階のデッキになる。休憩所としても多くの人が利用出来る作りになっている。」

「ご案内ありがとうございます。ムビス司令」

「いや、私が案内出来るのは本部くらいまでだ。この地区の防衛に当たるのだから、自分でも時間をつくって街の方にも足を運んでくれたまえ。」

「はい」


2人がそんな会話をしていると、デッキの奥で話す2人の人物の姿が見えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「その後です。ライダーがグランのパイロットで、凄い人なんだとわかって、だから俺も、ライダーに憧れて軍に…」

「そうか…ライダー兄さんは世界中飛び回っていたからな。この自治区は勿論、そうじゃない所でも多くの人に影響を与えてる。気がついたらグランに乗っていて、気がついたら軍に入っていて…みんなライダーの背中に憧れていた。かくいう私もその一人さ」


「やあ、お話し中かな。」

ムビス司令が声をかけた。

「ムビス司令。」

マキ議員はムビス司令に声をかけると、隣にいたクラウスにも気づいたようだった。

マキ議員とクラウスは目が合ったが、議員はやはり少しきまずそうにしている。

アクセルもまたムビス司令の隣にいるその人物が、先日レセプションの時にガングルス議員に教えてもらった連邦のエース、クラウス・エリアデスであることに気づいた。


お互いに声をかけあったその時、

「みーつけたぞぉー!アクセル・スタァアアアー!!!!」

「!?」

一台のラナフロートがデッキを超えて突然現れた。

よくみればそれはこの建物の壁面清掃用のラナフロートだ。

「誰だ・・・!?」

アクセルは思わずそう言っていた。

「な・・・なにいぃ!?俺を忘れただと!?くぅぅううううう!許せん!」

その場にいる誰もがまだ呆気にとられている。

「連邦にこの人ありと言われるアルゴ・ツィストとはこの俺のことだ!セレモニーでは惜しくも負けたが、あれが俺の全てだと思うなよ。今日ここでリベンジマッチだ!」


思い出した!セレモニーの決勝前のレースで同じ組になっていたレーシェ連邦の選手だ・・・!

再戦を申し込む為に清掃用のラナフロートを強奪して今目の前にいるということだろうか。なんという執念。


「アルゴ。」

クラウスがアルゴに声をかけるとアルゴはあからさまに驚いた。

「げ!?ク、、、クラウスさん!?!?なんでここに!?って、ムビス司令も!?どうなってんだこの!?」

そうか。ここにいるクラウスさんも連邦の軍人なので、アルゴの上官にあたるわけだ。


クラウスやムビス司令など錚々たる面々がいることにアルゴは少し面を食らったが、すぐに気を取り直してアクセルの方に向き直った。

「とにかく!俺と再戦しろ。アクセル!」

「再戦しろって言ったって・・・」

どうしろっていうのだ。ここに赴任したばかりでまだ何をどうしていいのか全く分からないし、こんな個人的な形で試合とはいえレースをしていいものなのか。

アクセルがたじろいでいるとムビス司令が助け舟を出してくれた。

「うむ。先日のセントラルなら、もう使える状態にあるぞ」

セントラルはセレモニーが開かれた会場だ。確かにあそこならレースの設備も色々と揃っている。

「じゃあ、、、一試合だけだぞ!」

そうして試合をすることになった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


夕暮れが会場にさし始めた頃、一行は会場に到着した。

ムビス司令は会場の使用許可を取ってはくれたもののその後は忙しいということで去ってしまい、マキ議員とクラウスがついていくこととなった。


会場についたもののクラウスはマキ議員に未だに話しかけられずにおり、

マキ議員もまた黙ったままだ。

「よおし!この間は単純なレース構造だったが今日は俺がコース設定をする!」

アルゴが息巻いている。コースは空中にラナフロート制の映写機で投影出来るので割と自由がきくのだ。

その様子をクラウスもマキ議員も観客席から見ていた。

相変わらず二人の空気はどこか気まずい。

クラウスが先日の非礼を詫びるなら今しかないのではないかと思ったそのとき、観客席の段を降りようとしたマキ議員が足を踏み外した。

「あっ、、、」

よろけそうになったところを、クラウスは思わず抱え止めていた。

「・・・すまない。」

マキ議員はクラウスを少しばつが悪そうに見ながらそう答えた。


「先日は、、、すまなかった。」

クラウスがそう言うとマキ議員は最初クラウスを少し厳しいまなざしで見たが、その後会場に目を移し、落ち着いた表情で答えた

「いや、、、、、気にしなくて良い。気にしなくてよいのだ。貴君も、、、私も、、、、。」


そういうと再び二人で会場の様子を見ていた。

夕日が若くレースに熱中する二人を優しく包んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


アクセルが長い一日を終えると、隊員達が労いの声をかけてくれた。

みんなも今日の任務が終わりロビーでテレビを見ながら一息ついているところだった。

「アクセル、お疲れ様!長かったな」


――であるからして、地球環境保持主義団体連盟 オルティアのバルドア代表は取材に対し、、、、、


「ありがとうございます。講座の他に色々あって」


――同国の今回の事件との関与を真っ向から否定しており、


「おう、それ全部テキストか!?すごい量だな」

「はい。今日から寝る間もなく勉強することになりそうです。」


――開発反対派との関与も同様に否定しています。


「ああ、応援してるぜ。頑張れよ。」

「はい。」


ロビーの背景で流れるニュースの映像の中に、ユリシアがいることに、アクセルはまだ、全く知る由もなかった。

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