第9話 アルゴ参上!(2)

「マキ・グランフェルトだ。よろしく」

そう言って立っていたのはライダーの記念碑で会った女性だった。

本来なら彼女がムビス司令の言っていたグランフェルト議員かとまず思うものの、クラウスは最初全く違う感想を抱いた。

先日とはあまりに雰囲気が違ったので本当に今目の前にいるこの人物は先日会った女性と同一人物だろうかと思ったのだ。別の人間だろうかとも考えたが発した声も一緒なのでそれが彼女だと確信した。


確信した後、全てが腑に落ちると同時にとてつもない後悔の念がクラウスを襲った。人があまり来ない記念碑になぜ、しかもレセプションの日の夜に花束を抱えて持ってきたのか、なぜライダーの過去について語ることが出来たのか。

それは彼女が自治区に昔から住む住人だからではなく、彼女がライダーの親類でレセプションの参加者だからに他ならなかった。

自治区の人間はさすがに来ないのではないかと思いわざわざ夜に記念碑に向かったのに、よりにもよって出会ったのがライダーに最も近しい人間だとは。


なんて失礼なことをしてしまったのだろう、謝罪しなければと思ったが、非公式な場での出来事であったしこの場で言い出せる雰囲気ではなかった。


どうして良いのかわからないまま立ち止まっているとメルファン議長とムビス司令が一通りの会話をした後去って行ってしまった。

勿論ガングルスとマキ議員も同様だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それでは、今日の講座は以上とします。」

最初の全体説明と講義が終わることには昼下がりになっていた。

新しく配備されるグラン・スピカの乗組員決定の試験までに受けなければならない講座や試験の数はどうやら当初考えていたよりかなり多そうだということが今日の説明でわかった。

先日の襲撃についての取り調べもまだあることは確実であり、通常の任務もあることを考えればしばらくかなり忙しくなりそうだ。


アクセルは一先ずは最初の講座を終えたことに安堵していた。

そうして部屋を出ると、メルファン議長の一団がいた。


「おお、アクセル!」

真っ先に声をかけてくれたのはガングルス議員だった。

「今日は本部に用か?」

「はい。実はグラン・スピカの搭乗員向けの講座が今日から始まって」

そういうと一緒にいたメルファン議長が答えた

「そうか。正式に志願したのか。」

「はい。ライダーの様になれるよう、頑張りたいと思います。」

「はっは。ライダーか!期待してるぞ、アクセル。」

ガングルス議員が爽快そうに笑った。議員というと真面目で襟の詰まったかんじの人を思い浮かべるが、この人は人柄の良さみたいなものが自然と滲み出ているような人だ。

「ここにいるマキ議員はライダーの親族に当たる人だ。せっかくだから少し話したらどうだ。」

そう言ってガングルスが隣にいたマキ議員に声をかけた。

マキ議員は少し悩んでいるようだったがメルファン議長が黙って頷いたのを見て決めたようだ。

「本部を少し案内しよう。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


マキ議員に案内してもらったのは、本部の中階にあるデッキだった。

外にへり出ていて休憩出来るような空間になっていた。

「君は、ライダー兄さんに憧れていたのか。」

マキ議員もアクセルもデッキから自治区を眺めている。

「はい。軍に入ったのも、ライダーさんがきっかけです。」

「そうか・・・」

「俺、小さい頃ライダーに会ったことがあるんです。」

「ライダーに?」

マキ議員は驚いたようだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


あれは帝国に移住して間もない頃だった。

自分が生まれる頃には帝国人のモルデア人への差別というのも大分なくなってきていたが、それでもモルデア人への偏見はそう簡単に消えるものではなかった。

表立って差別されることは少なくても生活する上での暮らしにくさや制度上の都合で困ることはまだまだあった。

モルデア人側も帝国を恨んでいるところがあったので、帝国に住むモルデア人はそう多くはなかった。

そういった背景もあり、あの頃は周りの好機の目や心ない言葉に毎日のように落ち込んでいたのだ。


その日もいつもの通り学校の帰り道、同級生に言われた言葉を気にして、何をするでもなく1人空き地の遊具に乗っていた。


――お前も超能力者なんだろ!なんか使ってみろよ!


そんな風にからかわれるのがその時期は多かった。

モルデア人は超能力的な力に恵まれていることが多かったが

アクセルはモルデア人だからといってこれといった力があるわけではなかった。


自分でもやり場のない思いを抱えながら夕日を眺めていると、一台のバイクが通りかかった。

バイクはそのまま通り過ぎるかと思ったが、その主はそのままアクセルを見ていた。

アクセルが変わらず座っていると、バイクの主がやってきて隣に腰をかけてきた。

「どうした。」

アクセルは隣に来て話しかけられたことに多少驚いたがどうでもよいとも思った。

隣に来た人物は何も言わずそのまま座っている。

このまま何も言わなければずっとこうしているのだろうか。

「わからない。」

何とか声に出して言えた言葉がそれだった。

その時の感情は今でもまだ上手く説明できないが、怒りや悲しさや悔しさや、色々な思いでいっぱいだった。

でも何が原因でそうなっているのか、そう思うかなんてことは自分にもわからなかった。

自分にもわからないそんな思いを他人に変に説明して、解釈されて、誤解されるのは嫌だという思いもあったのかもしれない。


「そうか。」

「許せない・・・。」

ふいに出た言葉だが、自分でも何が許せないのかはわからなかった。

悪口を言う相手にだろうか、モルデア人に決して優しくはないこの世界にだろうか、それとも自分自身にだろうか。

渦巻く感情をどうしたらいいのかはわからなかったが、この複雑な感情の中に怒りがあるのは確かだった。


「お前、名前は?」

「・・・アクセル。アクセル・スター」

「アクセル。自分でも抑えきれないような強い怒りや憤りの感情を持っても、その感情に身を任せるだけじゃだめだ。」

わかっている。わかっているんだ・・・


「でも、なんでこんなにも強い怒りや憤りを感じたのか、そこには説明できなくてもきっと大事な理由がある。その熱い思いは忘れなくていい。」

「・・・」

アクセルはライダーの方をじっと見つめた。


「後ろに乗るか?」

そう言ってライダーは自分の愛機のバイクを指さした。


その日ライダーのバイクの後ろからみた景色や感じた風、ライダーの頼もしい背中はアクセルにとって一生忘れられないものになった。


「俺はライダー。ライダー・グランフェルトだ。」

「ライダー」

別れ際にライダーは自分の名を名乗った。

「ああ。」

「ライダー。俺も、ライダーみたいになりたい!」

そう言うとライダーは笑った。

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