第8話 アルゴ参上!(1)

メルファン議長からグランパイロット志願の話を聞いた数日後、正式にパイロット志願について軍から報告を受けた。

勿論志願すればパイロットになれるという訳ではなく、そもそも志願自体に条件が設けられていた。

アクセルはグランを模した小型機、マグナに乗っていた為志願に必要な規定の条件は満たしていたが、レースをメインで行っていたところもあり、パイロット適正試験の前に受講しなければならない講座や試験が多くあった。


「ロードさん、今日は候補生向けの全体講習会があるので、本部に行ってきます。」

軍寄宿舎のロビーで朝食を取るロードに声をかけた。

「新しいグランの候補パイロットになるんだったよな。頑張ってこいよ。」

「今日はその訓練?」

声をかけてくれたのは軍オペレーターのシーナだ。いつも明るい笑顔でいてくれるので帝国軍の隊員はシーナをみんな慕ってる。

「いえ、実際に動かすような訓練はまだまだ先で、今日は今後の志願の手続きの説明や最初の講習が少しあるくらいです。俺はレースをメインでやってきたので、特に周りよりも受けないといけない講座が多くて」

「そうなの。こっちの仕事もあるのに大変ね・・・。頑張ってね!」

シーナがそう元気づけるとロードが横から

「そんなにすぐ乗れるわけないだろ」

と言って二人が言い争いになったのでそっと抜けて講座に向かうことにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


宇宙開発自治区はセレモニーの強襲の一件はあったもののその後は順調に開発が進んでいた。

セレモニーの一件を通じ防衛がより強化されるようになったが、基本的な人事や防衛計画に変更なく、開発自治区の防衛航空部門の隊員兼指導官として連邦のエースパイロット、クラウスが指名されることとなった。


「クラウス君、今日はわざわざありがとう。」

声をかけたのは帝国軍総司令ムビス・ギキョウだ。

「自治区開発の防衛の要として君には今後働いてもらうことになる。各国手を携えての共同防衛、何しろ初の試みだ。想定外のことも多々あると思うが、君の手腕に期待しているよ。帝国うちの隊員達もビシバシしごいてくれ。」


10年前の連邦と帝国の宇宙空間での衝突がきっかけで進んできた宇宙開発であったが、帝国と連邦の軋轢が消えたわけではなかった。

開発自治区をどこに設置するかということに関しても当然揉めたが、既存の開発地区としての土台があったことや地理的要件、受け入れ体制など諸々の事情から自治区は帝国に置かれることとなった。

なのでこの地区の防衛部隊に限らず政治的な取り決めに関しても基本は帝国の軍が主体となって取り仕切ることになっているが、勿論それでは共同開発の意味がないので、要所要所重要な役職に連邦やナッセなど他の国々の担当者が就いていた。

クラウスが赴任したのは主に航空部門の取り仕切りや隊員指導などである。実力は勿論言うまでもなかったのだが、帝国の英雄であるライダー・グランフェルトを討ち取った男をあえて帝国領の、しかもライダーゆかりの地であるこの自治区の要職に就けてきたことをよく思わない帝国の意見があることも確かだった。

なのでクラウスはムビス司令が例え表面的なものだとしても、好意的に接してくれたことに安堵していた。


「君を今日本部ここに呼んだのは帝国うちの上層部との顔合わせの為だ。」

「メルファン議長ですね。」

「そうだ、それだけではなく議長の他に何名か新しく自治区に赴任した議員も来る。これから色々と顔を合わせる機会も増えるかもしれんのでね。」

クラウスはなるほどと思った。共同自治区開発といってもこの規模の自治区を共同経営など世界で初の試みだ。自分の仕事も航空部門取り締まりや隊員指導などざっくりとしているが、今後開発が進むにつれ雑用も増えるのだろう。

「それで、、、、君には先に言っておいた方がいいと思って今日は少し早く来てもらったんだが、、、」

ムビス司令が申し訳なさそうに切り出した。

何だろうか。仕事の依頼だろうか、それなら覚悟の上だが

「今度赴任する議員の中に、あの、ライダー・グランフェルトの親族がいるのだ。」

クラウスは一瞬心臓の止まる思いがした。ライダーとの一戦は過去の傷として、未だに鈍く重くクラウスの心を縛り付けていた。ライダーにゆかりのある自治区赴任を何より一番悩んだのは他ならぬクラウス自身であったが、それでもこの任に就いたのはどこか罪滅ぼしの気持ちもあったからだ。

ムビス司令の一言は今まで覚悟していたどの条件よりもクラウスの心を揺るがすものだった。

聞いていない。そう言って任を解いてもらおうかとすら思ったその時、ドアを叩く音がした。


「いやあ、ムビス司令すまなかったね。遅くなった。クラウス君、待たせてしまってすまない。開発自治区議長のメルファン・ヤースだ。どうぞよろしく頼む。」

そういってメルファン議長と握手した後、議長が続けた

「ああ、うちの党の議員を連れてきたんだ。彼らともよろしく頼む。」

議長が示した先から巨体の男が早速こちらに向かってくる。

「ガングルス・E・ベータだ。よろしく頼む。」

そういうとガングルスと名乗る体躯の良い男が握手するとともに背中を叩いた。

そうしてその巨体を引くともう一人の姿があった。

「マキ・グランフェルトだ。よろしく」

そう言ってそこに立っていたのは、ライダーの記念碑で出会った女性だった。

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